キミと桜を両手に持つ
会社にいる時は隙がないのに、家にいる時は隙だらけ。朝起きてぼーっとコーヒーを飲んでいる時も夜一緒にテレビを見てる時も一樹を信頼して安心しているのか全くの無防備。このオンオフの差が激しくてそのギャップにいつもやられてしまう。
そんな彼女が毎日家に帰れば健気に自分を待っている。正直、意識するなという方が間違っている。一樹が彼女におちるのはあっという間だった。
……あの時、もう二度と恋愛はしないとあれだけ誓ったのにな。こんなに簡単に彼女を好きになるなんて本当に俺はどうかしてる。
でも……凛桜は《《彼女》》とは全く違う──…
心の底でこの恋は《《彼女》》の時と同じ運命を辿らない、ともう一人の自分の声がする。
「一樹、この後皆で飲みに行こうって言ってるんだけどお前も来る?」
試合が終わり、蓮がベンチに戻ってくると一樹に尋ねた。以前なら喜んで行くところなのに今は凛桜が待っている自分の家に早く帰りたくてしょうがない。
「いや、今日は帰るよ」
「凛桜さんがご飯作って待ってるんでしょう。もうやだー。なんだか新婚さんみたい」
そう揶揄った詩乃を忌まわしげに睨んだ。すると詩乃の言葉を聞いたバスケ仲間が次々と一樹のまわりに集まってくる。
「え、なになに? 一樹、新婚さんごっこしてるの?いやらしいな〜」
「あのな、変な言い方するな。彼女とはそんなんじゃないから」
「えっ、誰が誰と新婚さんごっこしてるの?」
「同じ部署にいるすごく美人な子」
「詩乃、余計なことは言うな。いいか、彼女はただ俺の家で同居してるだけだ」
すると蓮がいきなり一樹の肩に腕を回してきた。
「一樹、お前本当に彼女と何もないと言い切れるか?いい年頃の独身の男が可愛い女とプラトニックな同居とかありえるか?」