キミと桜を両手に持つ

 急に先週彼女が風邪で具合が悪いのに押し倒してキスをした事を思い出して蓮から目を逸らした。

 蓮は詩乃の恋人だが、実は一樹とは昔からの幼馴染。一樹がとてもプライベートな性格なのを知っていて、普通なら男であろうが女であろうが他人をそう安易に家に招き入れないのをよく知っている。

 蓮はクツクツと笑うと一樹の肩を引き寄せた。

 「今度ここに連れてこいよ。そしたら皆で飲みに行こう。綺麗な子なんだろ?」

 「お前には詩乃がいるだろ」

 思わずムッとして蓮を睨むと彼はハハッと笑った。

 「ったく冗談だろ。そんなマジで怒るなよ」

 ニヤニヤと笑う蓮や詩乃をひと睨みすると、一樹は荷物をまとめて凛桜の待つ家へと急いだ。


 
 「ただいま」

 家に帰るとキッチンでは髪を無造作にアップした凛桜がエプロン姿で夕食の準備をしていた。

 「あ、お帰りなさい。バスケはどうでした?」

 凛桜は料理の手を止めて笑顔を一樹に向けた。彼女の大きくて澄んだ瞳がまっすぐに一樹を見上げる。そんな彼女が可愛くて愛しくてしょうがない。

 「うん、楽しかったよ。これ途中のお店で買ってきたんだけど、良かったら夕食の後一緒に食べよう」

 「うわぁ、これ今SNSでよく見るシュークリームの専門店ですよね。美味しそう!」

 彼女が子供のように喜んで箱の中身を見ているのを微笑んで見た。彼女の笑顔が見たくて週末はスイーツ好きな彼女の為に店に並んでまでも買いに行ってしまう。
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