キミと桜を両手に持つ
「ここ本当にいいところだなぁ。そういえばイトコのマンションって言ってたけど、どうしてこんな広い部屋住まないのに買ったんだろう?投資の為かな…?」
少し不思議に思いながらもラウンジチェアに座って目の前に延々と広がるビルや住宅地を眺めた。
こんなに大勢の人が住む街なのになぜか自分だけが一人ぼっちのような気がしてとても孤独になる。
「私ってやっぱり一人で生きていく運命なのかな……」
恋人や子供連れの家族が行き交う通りをぼーっと眺めながらそうポツリと呟いた。
母は私が一人でも生きていけるよう厳しく育ててくれたけど、でも私は賑やかで温かい家庭を持つことに憧れていた。
私は一人っ子だったし母は仕事で忙しかったから学校から帰ってもいつも一人。家事を済ませて勉強してそして夕食を一人で食べる。よく考えると寂しい子供時代だったと思う。
だから愛する人が待つ家に帰ることがとても憧れだった。和真ともいつか結婚して子供を産んで賑やかで温かい家庭を持つ。ずっとそう思っていた。
でも……
再びじわりと涙が込み上げてきて、慌てて涙を拭った。いつまでも泣いてたってしょうがないのに、どうしても涙が溢れてきてしまう。
詩乃さんのお陰で少し余裕ができたものの、新しく住む場所を急いで探さなければならない。新しいアパートを借りるにはまとまったお金が必要になる。お金が必要なら働かなければならない。月曜日になればまた新しい週が始まって会社に行かなければならない。
ここで泣いている暇はない。母が言うように、頼れるのは自分しかいない。自分で自分を幸せにするしかない。
ふぅーっと大きなため息をつくと、両手でパチンと頬を叩いて弱気になっている自分に喝をいれた。
「よし、また明日から頑張ろう。お母さん、見守っててね」
そう青空に向かって呟くと、まずはスーツケースの中身を片付けようと部屋の中に入った。