キミと桜を両手に持つ
私は和真に肩を抱かれながら泣いている彩花という女の子をじっと見つめた。私と違って小柄で儚げに見えてとても可愛らしい。いかにも男性が守ってあげたくなるような、そんな女の子だ。
いつから二人はこういう関係になっていたの?
以前にもこのベットで彼女を抱いていたの……?
そんな考えがぐるぐると頭の中を回り急に目眩がしてきて立っていられなくなる。
「……わかった。私、ここを出ていく」
くるりと踵を返すとフラフラする体を必死に支えながら部屋を出て行こうとした。すると後ろから和真の嘲笑ったような声が聞こえた。
「涙のひとつも流さないんだな。凛桜はいつもそうだよな。甘えもしないし、誰も必要としない。なんでも自分でやってしまう。そんなんで男が一緒に居たいと思うか?」
……どういう意味…?
振り返って何かひとこと言ってやろうかと思ったけど、結局何も言わずに荷物をまとめて家を出た。
一体私はどうすればよかったの?出来ることも出来ないと言って甘えればよかったの?あの子みたいに泣けば助けてくれたの?守ってくれたの?
強くなれと育てられた私はどうやって甘えたらいいのかも、どうやって自分の弱さを見せたらいいのかもわからない。
重いスーツケースを引きずって街を歩きながら悲しくて悔しくてあの日はひたすら泣いた。和真の事は本当に好きだった。裏切られて傷付かないわけがない。
その日から私はホテルやネカフェを転々とした。今は仕事が忙しくてゆっくりと住む場所を探している時間もない。かといって毎日ホテルに泊まるほどお金が有り余っているわけでもない。昨夜もどこに泊まろうかと会社近くでスーツケースを引きずってうろうろしていたところを詩乃さんに見つかった。
まさか恋人に裏切られて住む場所をなくしましたとも言えず、住んでいたアパートが水漏れで水浸しになり一ヶ月ほど家に戻れないと話したところ、それならとこの部屋を貸してくれる事になった。