キミと桜を両手に持つ
母は私を日帰りで遊びに行けるところへ連れて行ってくれたけど、仕事で忙しかったから泊まりがけで行くような遠出は殆どしたことがない。
藤堂さんは突然私を後ろからギュッと抱きしめると耳元で囁いた。
「凛桜、一緒にキャンプ行こうな」
「えっ?キャンプに連れて行ってくれるんですか?」
「もちろん。魚釣りも教えてあげる」
キャンプには行ったことないけど、よくテレビで見るテントキャンプはすごく楽しそう。小さなテントに居心地がよくなるよう工夫して簡易の家具やエアーベッドを置いたり、焚き火でお料理したり、朝は自然の中でコーヒーを飲んだりと考えるだけでもワクワクする。魚釣りはどうやってするのか全然わからないけど、でも絶対に一度は挑戦してみたい。
「本当ですか?すごく楽しみ!」
大喜びしている私を見て藤堂さんは小さく声を出して笑うと、頭にキスを落とした。
「凛桜、そろそろ帰ろうか」
「はい!」
彼の後に続いて譲渡会場を去ろうとしていると、トイプードルの雑種が丁度里親に引き取られていくところを目にした。
中学生くらいの女の子がその犬を抱いていて両親と共に車へと歩いていく。犬が女の子を見上げて嬉しそうに尻尾を振っているのを見て思わず微笑んだ。
……よかったね、優しい家族と一緒に家に帰れて。私もね、この優しい人と一緒に家に帰るんだよ。
私は隣を歩いている彼を見上げた。藤堂さんは私と目が合うとふっと目を細めて微笑んで私の肩を抱き寄せた。
彼と一緒に歩きながら新しい家族と共に車に乗り込む犬を見て、「幸せな人生をね」と心からエールを送った。