キミと桜を両手に持つ
「ごめんなさい。本当は引き取りたいんですけど、日中は働いていて家にいないので……」
少し悲しそうに目の前にいる子犬を見た。いつも誰か家にいる家庭に引き取られた方がこの子も幸せになるに違いない。
「凛桜、犬が好きなの?」
藤堂さんが興味津々で犬を撫でている私を見た。
「犬は昔から大好きなんです。母と一緒に住んでいたアパートはもちろんペット禁止だったから飼ったことはないんですけど、でもアパートの近所にすごく人懐こいゴールデンレトリバーがいたんです」
子供好きなのか小学生の子供達が帰る時間になると家の鉄格子のゲートの前でいつも待っていた。私は学校帰りその犬の頭を撫でてからいつも家に帰っていた。
「すごく太ってたんですけど、でも人懐こい犬で私がその家の前を通る度に尻尾を振って大喜びしてくれるんです。それでいつか大きくなって家族を持ったら私も犬が飼いたいなって思ったんです」
「そっか。凛桜は犬が飼いたいのか」
藤堂さんはクスリと笑った。
「他にはどんな夢がある?凛桜が家族を持った時」
「えっ?将来の夢ですか?うーん、そうだなぁ……」
私は犬を撫でながらしばし宙を見た。
「キャンプに行きたいです」
「キャンプ?」
「テントキャンプして、魚釣りしたいです」
それを聞いた途端、藤堂さんは声をあげて笑い出した。
「大きな一軒家を持つとか、毎年海外旅行へ行くとか言うのかと思った」
「そ、それはそれでいいと思うんですけど」
藤堂さんがあまりにも笑うのでつい恥ずかしくなって顔を赤くした。
「その、よく小学校の頃って夏休みの日記帳みたいな宿題があったじゃないですか。それでクラスの友達が家族でキャンプに行ったとか、田舎のおじいちゃんの家に遊びに行って魚釣りしたとか書いてあったのを見ていつもすごく羨ましくて……」