キミと桜を両手に持つ
「あー、あれですか?あれはプログラムがうまく書けた時に嬉しくて笑ってるだけですよ。別にエロサイト見てるわけじゃないですから」
佐伯くんはコーヒーを飲みながらガラス窓越しに遠坂くんを見た。
「でもさ、こんなに出来るのになんで今まで常駐先に行ってたんだろ」
常駐先では割と単純作業の繰り返しが多い。スキルアップするのならこの制作部で働いた方がよっぽど技術が身につく。
「彼ずっと契約社員らしいですよ。何でも友達と一緒にソフト開発してるから定時に帰れる仕事にしたかったみたいです。でも今回藤堂さんに残業なしの週一自宅勤務でもいいって言われてここにくる事にしたって聞きました」
「すごい!自分でソフト開発してるんだ!」
皆でコーヒーを飲みながら改めてこの新しい制作部のメンバーを眺めていると前田さんがひょこっとリフレッシュルームに顔を覗かせた。
「ごめん如月さん、今ミーティングいい?」
「あ、はい」
急いでノートを持ってミーティングルームに入ると、いきなり前田さんはクンクンと私の周りの空気を嗅いだ。
「えっ?どうしたんですか?何か変な匂いがしますか?」
席に座りながら慌てて服の匂いを嗅いだ。
……やだ、私、なにか変な匂いする?特に変な匂いはしないんだけど……?
眉根を寄せて犬みたいにクンクン袖を匂っていると前田さんはじっと私を見据えた。
「なんか同じ匂いがする」
「へっ……?」
「如月さんと藤堂さん、同じ匂いがする」
「…………」
ドキリとして前田さんを見ると、彼は私の反応を窺っている。
「ちょ、ちょっと何わけわからない事言ってるんですか。さ、ミーティングしますよ」
慌てて彼から目をそらすと、この話題から遠ざかろうと持ってきたノートを広げた。