キミと桜を両手に持つ

 「ねぇねぇ、なんの芳香剤とか柔軟剤使ってる?」

 前田さんは机に肘を立てて頬杖をつくと、わざとらしく無邪気な顔をして私を見た。
 
 「普通のスーパーで売ってるやつですよ」

 「どんなやつ?どこのメーカーのやつ?もしかしてあの新発売のやつとか?」

 そう言われてみると確かに今使っている柔軟剤はアロマ効果のあるシリーズで新しく発売になったフラグランスのものだった……かもしれない。
 
 「もう、どんなのでもいいじゃないですか。そんなこと聞いてどうするんですか」

 「実は藤堂さんにも同じ質問したんだよねー」

 「なっ……!」

 さらにドキリとして持っていたノートを握りしめた。そ、そんなに柔軟剤の匂いがするの!?

 「そ、それで?」
 
 できるだけ平静を装いながら尋ねた。前田さんはいつも異常なほど勘がいい。
 
 「藤堂さんもね、家の近くのスーパーで買ったやつって言ってた」

 「柔軟剤なんかスーパーで買わなかったらどこで買うんですか。いたって普通ですけど」

 平常心、平常心、と言い聞かせながらノートをパラパラとめくる。
 
 「えっ?あ、そう。これ柔軟剤の匂いかぁ。ちなみに俺いつもドラッグストアで買うけど……」
 
 「ドラッグストアもスーパーも同じです!とにかく早くミーティング……」
 
 「ねぇ知ってる?その香りの柔軟剤。ある特定の地域のスーパーでしかまだ売ってないんだよ」

 前田さんはニヤリと笑った。
 
 「えっ……嘘!?」

 そんな希少な柔軟剤だったの?確かお買い得商品って出てたような気がしたけど、えっ…?もしかして特別にあそこだけで販売してたってこと?

 私が一気に青ざめていると、前田さんは突然声をあげて笑い始めた。
< 100 / 201 >

この作品をシェア

pagetop