無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
 だからこの一年間の私の歩み寄りは、彼にとって迷惑でしかなかったのだろう。

 ようやく現実を直視したら、かろうじて残っていた前向きな想いが音を立ててちぎれたのを感じた。

 どんどん気持ちが冷めていく。

 ああ、今までなんて無駄な時間を過ごしてしまったのだろう。

 今更のように後悔に苛まれたが、失望が深い分迷はなかった。

 ――夫と離婚しよう。

 私は夫とよい関係を築こうと精一杯頑張った。これ以上続けても貴重な時間を無駄にするだけで現状がよくなる可能性はない。

 私は夫とは違い、冷たい仮面夫婦として生きて行くのは嫌だ。

 いわゆる政略結婚の私たちが恋愛関係になれないのは仕方がないのかもしれない。でも家族としての情すらない冷え切った家庭で子供も持てず、いつ帰るか分からない夫をひとり待つ日々を送る人生なんて考えるだけで目の前が真っ暗になる。

 夫にとっても、結婚をビジネスと割り切れない私のような人間が妻ではいろいろと面倒だろうから、離婚した方がお互いのためだろう。

 決心した私は、早速行動をはじめた。

 相変わらず不在の夫に電話をして、重要な用があるからすぐに会いたいと強引に呼び出した。

 これまでは彼の都合を優先し遠慮して来たけれど、そんなことをしていたらいつ話し合いができるか分からない。

 結婚してから夫に初めてする“お願い事”はそれなりに効果を発揮したようだ。

 翌日の日中に、彼の職場と自宅の中間にある喫茶店で待ち合わせをすることになったのだった。
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