図書館の逢瀬


 同じタイミングで同じ本を取ろうとしたのは、スーツ姿の男性だった。


 男性は少し疲れた顔をしている。


 (日曜日もお仕事で大変そうだなぁ。)


 なんてことをぼんやりと思う。



 男性の方をチラリと見る。


 腕には既に数冊の本が抱えられていた。


 きっと読書が好きなのだろう。



 「はい。」



 そう言って男性が私に本を差し出す。


 私は慌てて首を横に振った。



 「私はいいので!先に読んでください!」



 私はたまたまここに立ち寄っただけだ。


 雨が降っていなかったら図書館を訪れるつもりはなかった。


 しかし、男性は違うかもしれない。


 その本を目当てでやって来ていたのだとしたら悪い。

< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop