成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
でも真理子が入社する前に、すでに会社は傾きかけていたようで、そんな時に先代社長が急逝。
別の企業に勤めていた息子が、急遽呼び戻され、後を継いだという事だ。
「この話、専務はよく思ってないんだって」
隣でひそひそ話す声が聞こえる。
「そもそも社長が今の座に就いたのも、専務の反対を押し切って、常務が無理やり後を継がせたって噂だもんね」
「専務派と常務派かぁ。小さい会社でも、派閥争いってあるんだねぇ」
話を聞きながら、真理子はまた目線を落とした。
イルミネーションライトへの方向転換が軌道に乗り、今や会社は上向きに成長している。
それは現社長の手腕によるものだ。
それでも、電飾玩具に憧れて入社した真理子にとっては、いずれ会社が電飾玩具事業から撤退してしまうのではないか、という不安はあった。
――そういや、社長ってどんな人だったっけ? ほとんど会ったことないから、わかんないや。
「サイトの作成に当たっては、水木さんと佐伯くんにメインで動いてもらいます」
突然、成瀬の鋭い声が聞こえ、真理子はビクッと顔を上げる。
「デザイン会社との打ち合わせは佐伯くんに。社内システムとの連携に関する事柄は、水木さんに。以上、各々よろしくお願いします」
打ち合わせが終わり、卓也は満面の笑みを真理子に向けた。
「いやぁ。やっぱ成瀬課長の切れ味、すごいっすね。俺、気合入りました!」
「よかったじゃない。デザイン会社とのパイプ役なんて、卓也くんに向いてると思う」
「ですよね! 久々にわくわくしてます」
卓也は笑顔でガッツポーズを見せると、他の社員と共にぞろぞろと会議室を後にする。
「水木さん。ちょっと」
真理子もその列に続こうしたとき、低い声が呼び止めた。
ドキッとして振り返ると、成瀬がノートパソコンを片付ける手を止め、真理子を見つめている。
「はい……」
誰もいなくなった会議室で、真理子はそろそろと成瀬に近寄った。
真理子が目の前に立つと、成瀬はおもむろに眼鏡を外した。
そこに見える瞳には、今までのクールさは一切感じられない。
真理子はつい甘い空気に引き込まれるように、よたよたと成瀬に歩み寄った。
すると急に、成瀬の長い腕が真理子の肩をぐっと引き寄せ、鼻先すれすれに顔が近づく。
「ひ……」
またしても唇が触れそうな距離で成瀬に見つめられ、瞬時に真理子の頭はパニックだ。
「日曜日、9:00時間厳守」
成瀬は短くそれだけを言うと、再び眼鏡を耳にかける。
そして無表情のまま、呆然とする真理子を置いて会議室を出て行った。
置き去りにされた真理子は、へなへなと床にしゃがみ込んだ。
「だから……」
ガチャリと閉じた扉を睨みつけながら、真理子は火が出そうなほど沸騰した頬を膨らませる。
「いちいち、顔が近いんだってば!!」
会議室に響き渡る声は、きっと誰にも聞こえていないだろう。
別の企業に勤めていた息子が、急遽呼び戻され、後を継いだという事だ。
「この話、専務はよく思ってないんだって」
隣でひそひそ話す声が聞こえる。
「そもそも社長が今の座に就いたのも、専務の反対を押し切って、常務が無理やり後を継がせたって噂だもんね」
「専務派と常務派かぁ。小さい会社でも、派閥争いってあるんだねぇ」
話を聞きながら、真理子はまた目線を落とした。
イルミネーションライトへの方向転換が軌道に乗り、今や会社は上向きに成長している。
それは現社長の手腕によるものだ。
それでも、電飾玩具に憧れて入社した真理子にとっては、いずれ会社が電飾玩具事業から撤退してしまうのではないか、という不安はあった。
――そういや、社長ってどんな人だったっけ? ほとんど会ったことないから、わかんないや。
「サイトの作成に当たっては、水木さんと佐伯くんにメインで動いてもらいます」
突然、成瀬の鋭い声が聞こえ、真理子はビクッと顔を上げる。
「デザイン会社との打ち合わせは佐伯くんに。社内システムとの連携に関する事柄は、水木さんに。以上、各々よろしくお願いします」
打ち合わせが終わり、卓也は満面の笑みを真理子に向けた。
「いやぁ。やっぱ成瀬課長の切れ味、すごいっすね。俺、気合入りました!」
「よかったじゃない。デザイン会社とのパイプ役なんて、卓也くんに向いてると思う」
「ですよね! 久々にわくわくしてます」
卓也は笑顔でガッツポーズを見せると、他の社員と共にぞろぞろと会議室を後にする。
「水木さん。ちょっと」
真理子もその列に続こうしたとき、低い声が呼び止めた。
ドキッとして振り返ると、成瀬がノートパソコンを片付ける手を止め、真理子を見つめている。
「はい……」
誰もいなくなった会議室で、真理子はそろそろと成瀬に近寄った。
真理子が目の前に立つと、成瀬はおもむろに眼鏡を外した。
そこに見える瞳には、今までのクールさは一切感じられない。
真理子はつい甘い空気に引き込まれるように、よたよたと成瀬に歩み寄った。
すると急に、成瀬の長い腕が真理子の肩をぐっと引き寄せ、鼻先すれすれに顔が近づく。
「ひ……」
またしても唇が触れそうな距離で成瀬に見つめられ、瞬時に真理子の頭はパニックだ。
「日曜日、9:00時間厳守」
成瀬は短くそれだけを言うと、再び眼鏡を耳にかける。
そして無表情のまま、呆然とする真理子を置いて会議室を出て行った。
置き去りにされた真理子は、へなへなと床にしゃがみ込んだ。
「だから……」
ガチャリと閉じた扉を睨みつけながら、真理子は火が出そうなほど沸騰した頬を膨らませる。
「いちいち、顔が近いんだってば!!」
会議室に響き渡る声は、きっと誰にも聞こえていないだろう。