成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「グーー」

 ほっとしたのか、真理子のお腹が、突然大きな音を鳴らす。

「おい……」

 成瀬は乃菜と顔を見合わせると、あははと声を上げて笑い出した。

「す、すみません……。あまりにいい匂いで」

 顔を真っ赤にしてお腹を押さえる真理子に、乃菜が笑顔で飛びついた。

「とうたんがね、きっと、まりこちゃんがくるからって。まりこちゃんのぶんもつくったんだよ」
「え!? ほんとう?」

 真理子は乃菜を抱えたまま、キッチンに入る。
 真っ赤になったオーブンの中には、ジュウジュウと音を立てた出来立てのドリアが、三つ並んで入っていた。

「嬉しい……。美味しそう」

 真理子は成瀬の顔を見上げる。

「まぁ、あんなことがあった後だしな。お前なら来るだろうと思って」

 成瀬は頭をかきながらそう言うと、照れた顔を隠すように、真理子と乃菜の頬をキュッと掴んだ。

「二人のお腹の虫が怒りだす前に、さぁ食べるぞ」
「うん!」

 乃菜は真理子から飛び降りると、スキップしながらダイニングテーブルに向かった。

「きょうはね、のなのリクエストでドリアになったんだよ」

 乃菜は、鼻歌を歌いながらテーブルにスプーンを並べていく。

「そっかぁ。柊馬さんのミートドリアは絶品だもんね」
「そう!《《ぜっぴん》》なんだよ」

 真理子は得意げに答える乃菜を見ながら、成瀬に触れられた頬にそっと手を当てる。
 ピンク色になった頬は、じんじんとして温かかった。


「それにしても今日は、お前の事を守れって言われたのに、逆に守られた感じだったな」

 食後のコーヒーに口をつけると、成瀬はふうっと息をつく。

「そんな! 柊馬さんが隣にいてくれたから、できたんです。一人じゃなかったから」

 真理子は自分用のマグカップをコーヒーマシンから取り上げると、頬を赤らめながらそっと成瀬の向かいに腰かけた。
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