成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
昔の約束
お腹がいっぱいになった乃菜は、一人リビングでテレビを見ながら絵を描いている。
「それにしても、ビックリしました。乃菜ちゃんのパパが社長だったなんて……。社長は、何でずっと乃菜ちゃんの事を、隠してたんですか?」
首を傾げる真理子に、成瀬は少し考える様子を見せてから口を開いた。
「明彦も、相当悩んだと思う。専務も言ってただろ? 勘当同然で出て行ったって」
「はい……」
「乃菜が生まれたことは、父親である先代にも言ってなかったんだ」
「え!? じゃあ、先代は知らないまま……?」
「そうだな……」
真理子はあまりに悲しい話に、眉を下げる。
――たとえ勘当同然だったとしても、孫の存在を知らずに亡くなるなんて。
言わなかった社長と、聞かされなかった先代の、それぞれの想いは計り知れない。
今日の専務の話といい、社長と先代の確執がそこまで大きなものだったのかと、真理子は改めて知った。
「先代が亡くなって、明彦がサワイに社長として戻ることが決まった時は、相当の覚悟が必要だった。当初から専務をはじめ、反発している人間は多かったしな。乃菜の存在を知られることで、付け入る隙を与えたくなかったんだろう」
「だから、柊馬さんがサポートを? 社長が安心して、仕事に専念できるようにって」
「まあな。それに……」
――約束だったから。
成瀬はそう言いかけて、一旦口をつぐむ。
まっすぐに自分を見つめる真理子を見ながら、昼間の明彦の言葉が成瀬の脳裏を横切った。
「どうしたんですか?」
首を傾げる真理子に、成瀬は慌てて目線を逸らす。
「あ、いや。それより、お前は? あの後大丈夫だったか?」
成瀬は、取り繕うようにカップに手を伸ばした。
「もう大変だったんですから!」
「え!? 何があったんだ!?」
驚いて身を乗り出す成瀬に、真理子は子供のように口を尖らせた。
「柊馬さんが、普段見せない笑顔を社内で見せちゃったもんだから、私なんて今日一日、ずーっと問い詰められっぱなしでしたよ」
「なんだ、そんな事か」
「そんな事って!」
真理子がぷいと横を向くと、成瀬はほっとした顔をして、背もたれに背中を預ける。
「柊馬さん。なんで会社では、いつもぶすーっとした顔してるんですか? ここでは、こーんなに表情豊かで人間的なのに!」
真理子はわざと意地悪くそう言うと、身を乗り出して成瀬の顔を覗き込んだ。
「お前なぁ。まるで会社じゃ、俺はロボットみたいな言い方だな」
成瀬は肘をついた手に顎を乗せると、反対の手を伸ばして真理子の鼻をキュッと掴んだ。
その途端、真理子が椅子の上で飛び跳ねる。
「きゃ! もう、柊馬さんったら」
真理子は頬を真っ赤にさせながら、慌てて身体を逸らすと成瀬が掴んだ鼻を隠した。
その時、あははという明るい笑い声が聞こえリビングを見ると、乃菜がテレビアニメを見ながら楽しそうに笑っている。
「それにしても、ビックリしました。乃菜ちゃんのパパが社長だったなんて……。社長は、何でずっと乃菜ちゃんの事を、隠してたんですか?」
首を傾げる真理子に、成瀬は少し考える様子を見せてから口を開いた。
「明彦も、相当悩んだと思う。専務も言ってただろ? 勘当同然で出て行ったって」
「はい……」
「乃菜が生まれたことは、父親である先代にも言ってなかったんだ」
「え!? じゃあ、先代は知らないまま……?」
「そうだな……」
真理子はあまりに悲しい話に、眉を下げる。
――たとえ勘当同然だったとしても、孫の存在を知らずに亡くなるなんて。
言わなかった社長と、聞かされなかった先代の、それぞれの想いは計り知れない。
今日の専務の話といい、社長と先代の確執がそこまで大きなものだったのかと、真理子は改めて知った。
「先代が亡くなって、明彦がサワイに社長として戻ることが決まった時は、相当の覚悟が必要だった。当初から専務をはじめ、反発している人間は多かったしな。乃菜の存在を知られることで、付け入る隙を与えたくなかったんだろう」
「だから、柊馬さんがサポートを? 社長が安心して、仕事に専念できるようにって」
「まあな。それに……」
――約束だったから。
成瀬はそう言いかけて、一旦口をつぐむ。
まっすぐに自分を見つめる真理子を見ながら、昼間の明彦の言葉が成瀬の脳裏を横切った。
「どうしたんですか?」
首を傾げる真理子に、成瀬は慌てて目線を逸らす。
「あ、いや。それより、お前は? あの後大丈夫だったか?」
成瀬は、取り繕うようにカップに手を伸ばした。
「もう大変だったんですから!」
「え!? 何があったんだ!?」
驚いて身を乗り出す成瀬に、真理子は子供のように口を尖らせた。
「柊馬さんが、普段見せない笑顔を社内で見せちゃったもんだから、私なんて今日一日、ずーっと問い詰められっぱなしでしたよ」
「なんだ、そんな事か」
「そんな事って!」
真理子がぷいと横を向くと、成瀬はほっとした顔をして、背もたれに背中を預ける。
「柊馬さん。なんで会社では、いつもぶすーっとした顔してるんですか? ここでは、こーんなに表情豊かで人間的なのに!」
真理子はわざと意地悪くそう言うと、身を乗り出して成瀬の顔を覗き込んだ。
「お前なぁ。まるで会社じゃ、俺はロボットみたいな言い方だな」
成瀬は肘をついた手に顎を乗せると、反対の手を伸ばして真理子の鼻をキュッと掴んだ。
その途端、真理子が椅子の上で飛び跳ねる。
「きゃ! もう、柊馬さんったら」
真理子は頬を真っ赤にさせながら、慌てて身体を逸らすと成瀬が掴んだ鼻を隠した。
その時、あははという明るい笑い声が聞こえリビングを見ると、乃菜がテレビアニメを見ながら楽しそうに笑っている。