成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「柊馬さんにとって、佳菜さんの存在って……」
真理子が声を出した時、それを遮るように成瀬が口を開いた。
「佳菜が教えてくれたんだ。佳菜が俺に、初めて笑い方を教えてくれた」
真理子は、目の前が真っ暗になるような気がしていた。
「真理子……」
成瀬が何か言おうとしている。
それでも、今の真理子には成瀬の言葉の続きを聞く勇気なんてなかった。
「ご、ごめんなさい。もう遅いし、私、帰りますね」
真理子は突然立ちかがると、瞳にたまった涙がこぼれ落ちるのと同時に下を向く。
それを成瀬に気づかれないように荷物をつかみ取ると、真理子は急いで玄関へと駆けだした。
「真理子。ちょっと待て!」
後ろでバタバタと、成瀬が追いかけてくる足音が聞こえる。
真理子はその音から逃げるように、両手で玄関のドアをバタンと閉じた。
エレベーターに飛び乗り、マンションのエントランスを走って横切る。
そして、息を切らしながら歩道へと飛び出した。
足を止めた途端、目には次から次へと涙があふれだす。
――敵うわけない。そんな人に、私が敵うわけがないじゃない。
真理子は口元を手で覆うと、わぁっと声を上げてしゃがみ込んだ。
――柊馬さんはずっと、佳菜さんの事が好きだったんだ。それはきっと、今でも変わらない……。
冬を目前にした夜の風は、真理子の心の中までも冷たく吹き抜けて行くようだった。
◆
バタンと閉じたドアの前で、成瀬は立ち尽くしていた。
真理子が駆けて行ったであろう足音は、もうだいぶ前に聞こえなくなっていた。
成瀬は小さく息をつくと、静かにリビングへと戻る。
「乃菜?」
すると乃菜が、ゆっくりと成瀬の近くへと寄って来た。
「どうしたんだ? そろそろ寝る支度でもするか」
そう言いながら、ダイニングテーブルのカップに手をかけた成瀬の腕を、乃菜が力強くぐっと引く。
「とうたん」
いつになく真剣な表情の乃菜に、成瀬は首を傾げた。
「とうたんは、まりこちゃんのことがすきなの?」
「え……?」
乃菜の言葉に、成瀬は目を開いて一瞬たじろぐ。
乃菜はそれを見透かすかのように、大人びた顔をした。
「のなはね。まりこちゃんに、ママになってほしいの。だから……」
乃菜は成瀬の目をまっすぐに見上げた。
「だから、とうたんには、あげないよ」
真理子が声を出した時、それを遮るように成瀬が口を開いた。
「佳菜が教えてくれたんだ。佳菜が俺に、初めて笑い方を教えてくれた」
真理子は、目の前が真っ暗になるような気がしていた。
「真理子……」
成瀬が何か言おうとしている。
それでも、今の真理子には成瀬の言葉の続きを聞く勇気なんてなかった。
「ご、ごめんなさい。もう遅いし、私、帰りますね」
真理子は突然立ちかがると、瞳にたまった涙がこぼれ落ちるのと同時に下を向く。
それを成瀬に気づかれないように荷物をつかみ取ると、真理子は急いで玄関へと駆けだした。
「真理子。ちょっと待て!」
後ろでバタバタと、成瀬が追いかけてくる足音が聞こえる。
真理子はその音から逃げるように、両手で玄関のドアをバタンと閉じた。
エレベーターに飛び乗り、マンションのエントランスを走って横切る。
そして、息を切らしながら歩道へと飛び出した。
足を止めた途端、目には次から次へと涙があふれだす。
――敵うわけない。そんな人に、私が敵うわけがないじゃない。
真理子は口元を手で覆うと、わぁっと声を上げてしゃがみ込んだ。
――柊馬さんはずっと、佳菜さんの事が好きだったんだ。それはきっと、今でも変わらない……。
冬を目前にした夜の風は、真理子の心の中までも冷たく吹き抜けて行くようだった。
◆
バタンと閉じたドアの前で、成瀬は立ち尽くしていた。
真理子が駆けて行ったであろう足音は、もうだいぶ前に聞こえなくなっていた。
成瀬は小さく息をつくと、静かにリビングへと戻る。
「乃菜?」
すると乃菜が、ゆっくりと成瀬の近くへと寄って来た。
「どうしたんだ? そろそろ寝る支度でもするか」
そう言いながら、ダイニングテーブルのカップに手をかけた成瀬の腕を、乃菜が力強くぐっと引く。
「とうたん」
いつになく真剣な表情の乃菜に、成瀬は首を傾げた。
「とうたんは、まりこちゃんのことがすきなの?」
「え……?」
乃菜の言葉に、成瀬は目を開いて一瞬たじろぐ。
乃菜はそれを見透かすかのように、大人びた顔をした。
「のなはね。まりこちゃんに、ママになってほしいの。だから……」
乃菜は成瀬の目をまっすぐに見上げた。
「だから、とうたんには、あげないよ」