成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
 ――今は社長と乃菜ちゃんの存在が、すごくありがたい。でも……その気持ちに甘えて、本当にいいの……?

 自分の本心を隠したまま、二人と接することに罪悪感さえ感じることもあった。
 真理子は写真たてから目を離すと、小さくため息をつく。
 すると勢いよく扉が開き、小宮山が出勤してきた。

「おはよう。早いね」

 急いで来たのか、小宮山は息を弾ませている。

「おはようございます。朝一で秘書課に資料を取りに行っておこうと思って」

 真理子の声に相槌を打つと、小宮山は遠慮がちに真理子を見つめる。

「何か言われなかった? 大丈夫?」

 真理子は一瞬ためらったのち、あははと頭をかく。

「まぁ、何か言ってた気はしますけど」

 明るく答える真理子に、小宮山はほっとした顔を見せる。
 小宮山は社長よりも少し年上で、先代の頃から社長秘書をしているベテランだ。

「水木さんのそういうとこ、良いよね。社長が気に入るのも納得できるよ」

 小宮山は上着を脱ぐと腕まくりをし、真理子と一緒にデスクを拭き掃除しだした。

「正直、もう一人社長秘書が欲しいって、ずっと思ってたんだよねぇ。でも、社長が全然オッケーしてくれなくってさぁ。それもあって、秘書課の子たちが水木さんに嫉妬してるんだと思う」

 小宮山は大きくため息をつく。

「社長は今まで、なんでオッケーしなかったんですか?」
「さぁ? なんでだろ?」

 小宮山は肩をすくめながら、おどけたように何度も首を振る。

「まぁでも、こうやってさ。掃除ですら自分の心を許した人にしか、させない訳でしょ?」

 真理子が首を傾げると、小宮山はデスクを拭く手を止め、急に真面目な顔を向けた。

「孤独だからね。社長ってのは……。信じられる人を、探してたのかもね」

 小宮山の言葉に、真理子は胸の奥がチクリと痛むのを感じていた。
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