成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
成瀬がエレベーターホールに出た時、向かいからエントランスを歩いてくる姿が見えた。
「柊馬! 今日は外出?」
明彦は片手を上げながら、爽やかな笑顔を見せている。
「あぁ。今日は工場まで行ってくる。橋本の件の経緯も、電話報告だけだったしな」
「そっかぁ。俺もそろそろ行きたいと思ってたんだよね。みんなによろしく伝えておいてよ」
成瀬は軽くうなずくと、ふと明彦が手に持っている資料が目に入った。
どうも有名なジュエリーブランドの、パンフレットのようだ。
「お前は? 今、出勤なのか?」
「そう。ちょっと私用で遅くなってね」
照れたように口ごもる明彦の顔を、柊馬は伺うように見つめる。
しばらく沈黙が流れ、柊馬は静かに目線を逸らした。
「じゃあ、行ってくる……」
サッとその場を去ろうとした柊馬の肩に、明彦が手をかけた。
「ねえ、柊馬。知ってる?」
不思議そうな顔をする柊馬の耳元で、明彦は口元を引き上げた。
◆
夕方になり、小宮山が鞄に手をかけながら、真理子を振り返った。
「俺はこの後、社長に同行してそのまま直帰するから。後はよろしく」
「はい。気を付けて行ってらっしゃい」
真理子はそう言いながら、見送りのために小宮山と一緒に社長室に入る。
「あれ!? 社長。今日は、どうしちゃったんですか!?」
そして真理子は思わず驚いた声を出した。
いつもは小宮山に急かされて準備に取りかかる社長が、今日はすでに準備万端で待っていたのだ。
「真理子ちゃんにとっちゃ、俺は劣等生なんだなぁ」
社長はそう言いながら、小宮山と顔を見合わせて笑っている。
「い、いえ。そういう意味では、決してなくて……」
真理子は慌てて両手を振ると、取り繕うようにもごもごと口ごもる。
その姿に、社長は再び笑い声を立てた。
「ごめん、ごめん。実はさ。今日の商談相手はね、ちょっと重要なの。この話が決まれば、サワイはもっと変わるかも知れない」
社長は、少年のように目を輝かせている。
その顔を見るだけで、真理子までわくわくしてくるようだった。
「じゃあ、絶対にうまくいくように、応援してます」
真理子は笑顔で、ガッツポーズを返す。
「はい! しかと受け取りました!」
まるで敬礼するように、おどけて答える社長に、真理子はぷっと吹き出した。
「では私は先に、車の準備を……」
しばらくして小宮山は、先に社長室を出ていく。
バタンと扉が閉まる音が響き、社長が真理子を振り返った。
「そうそう。今日は、家政婦には入らなくて大丈夫だからね」
「え? あ、はい……」
首を傾げる真理子に、社長が白いレース模様がかたどられた封筒を、そっと差し出す。
「そのかわりに、真理子ちゃんを、こちらにご招待します」
真理子は目を丸くすると、封筒の表面を覗き込む。
そこには乃菜の手書きの文字で“しょうたいじょう”と書かれていた。
「今夜7時に。待ってるからね」
社長は真理子の耳元でそうささやくと、静かに社長室を後にした。
「柊馬! 今日は外出?」
明彦は片手を上げながら、爽やかな笑顔を見せている。
「あぁ。今日は工場まで行ってくる。橋本の件の経緯も、電話報告だけだったしな」
「そっかぁ。俺もそろそろ行きたいと思ってたんだよね。みんなによろしく伝えておいてよ」
成瀬は軽くうなずくと、ふと明彦が手に持っている資料が目に入った。
どうも有名なジュエリーブランドの、パンフレットのようだ。
「お前は? 今、出勤なのか?」
「そう。ちょっと私用で遅くなってね」
照れたように口ごもる明彦の顔を、柊馬は伺うように見つめる。
しばらく沈黙が流れ、柊馬は静かに目線を逸らした。
「じゃあ、行ってくる……」
サッとその場を去ろうとした柊馬の肩に、明彦が手をかけた。
「ねえ、柊馬。知ってる?」
不思議そうな顔をする柊馬の耳元で、明彦は口元を引き上げた。
◆
夕方になり、小宮山が鞄に手をかけながら、真理子を振り返った。
「俺はこの後、社長に同行してそのまま直帰するから。後はよろしく」
「はい。気を付けて行ってらっしゃい」
真理子はそう言いながら、見送りのために小宮山と一緒に社長室に入る。
「あれ!? 社長。今日は、どうしちゃったんですか!?」
そして真理子は思わず驚いた声を出した。
いつもは小宮山に急かされて準備に取りかかる社長が、今日はすでに準備万端で待っていたのだ。
「真理子ちゃんにとっちゃ、俺は劣等生なんだなぁ」
社長はそう言いながら、小宮山と顔を見合わせて笑っている。
「い、いえ。そういう意味では、決してなくて……」
真理子は慌てて両手を振ると、取り繕うようにもごもごと口ごもる。
その姿に、社長は再び笑い声を立てた。
「ごめん、ごめん。実はさ。今日の商談相手はね、ちょっと重要なの。この話が決まれば、サワイはもっと変わるかも知れない」
社長は、少年のように目を輝かせている。
その顔を見るだけで、真理子までわくわくしてくるようだった。
「じゃあ、絶対にうまくいくように、応援してます」
真理子は笑顔で、ガッツポーズを返す。
「はい! しかと受け取りました!」
まるで敬礼するように、おどけて答える社長に、真理子はぷっと吹き出した。
「では私は先に、車の準備を……」
しばらくして小宮山は、先に社長室を出ていく。
バタンと扉が閉まる音が響き、社長が真理子を振り返った。
「そうそう。今日は、家政婦には入らなくて大丈夫だからね」
「え? あ、はい……」
首を傾げる真理子に、社長が白いレース模様がかたどられた封筒を、そっと差し出す。
「そのかわりに、真理子ちゃんを、こちらにご招待します」
真理子は目を丸くすると、封筒の表面を覗き込む。
そこには乃菜の手書きの文字で“しょうたいじょう”と書かれていた。
「今夜7時に。待ってるからね」
社長は真理子の耳元でそうささやくと、静かに社長室を後にした。