惚れさせゲーム
〇 学校・帰り道(放課後・夕暮れ)

オレンジ色の夕日が、長く伸びた影を道に落としている。
住宅街へと続く道を並んで歩く紗菜と翼。

しかし、紗菜の顔は怒りと動揺でいっぱいだった。

紗菜「……絶対にイヤなんだけど」

翼「えー? なんで?」

紗菜「そもそも、何でそんな罰ゲームを考えたわけ?」

翼「俺の目標を達成するため」

紗菜「は?」

翼「お前を惚れさせるためには、それなりのステップが必要だろ?」

翼はまるで当然のことのように言いながら、ポケットに手を突っ込んで歩く。

一方の紗菜は頭を抱えたくなっていた。

紗菜(モノローグ)
「……ほんと、なんなのこの人は」

翼が昔から自由奔放なのは知っている。
でも、まさかここまで本気で絡んでくるとは思わなかった。

紗菜「……たった一日だけ、なんだよね?」

翼「おっ、やる気になった?」

紗菜「なってない。ただ、どうせ逃げても無駄だろうなって思っただけ」

翼「お、さすが紗菜。話が早い!」

翼はパッと笑顔を見せる。
それがあまりに屈託のない笑顔だったせいで、紗菜は少しだけ目を逸らした。

紗菜「……で、具体的には何をするの?」

翼「そうだなぁ……デートっぽいことをする?」

紗菜「デートっぽいことって?」

翼「手をつないで歩いたり、買い物したり、カフェ行ったり」

紗菜「ふざけないで!!」

翼「ははは、冗談冗談。でもまあ、それくらいは普通でしょ」

翼は軽く肩をすくめるが、紗菜は信じられないという表情のまま。

(絶対に惚れたりなんかしない……)

心の中で強くそう誓いながらも、どこか落ち着かない気持ちが胸の奥に広がっていた。

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〇 自宅・紗菜の部屋(夜)

机に向かい、ノートを広げる紗菜。
しかし、ペンを握ったまま、全く集中できていない。

紗菜(モノローグ)
「……一日だけ、あいつの彼女、か」

思い出すのは、翼のふざけたような、けれど真剣な目。

いつも適当そうに見えるけど、言い出したことは絶対に引かない性格。*

紗菜(モノローグ)
「どうせ、私をからかって楽しんでるだけ」

そう思うのに、なぜか心臓が妙に落ち着かない。
今までのように問題に没頭することができなかった。

紗菜(モノローグ)
「……バカみたい。こんなの、ただの罰ゲームなのに」

そう自分に言い聞かせ、紗菜は無理やりペンを走らせる。

だけど――。

翌日。
翼との「一日彼女」の罰ゲームが、本当に始まってしまうのだった――。
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