惚れさせゲーム
放課後、君と
〇 学校・昇降口(放課後)

夕方のオレンジ色の光が、昇降口のガラス窓から差し込んでいる。
生徒たちはそれぞれ帰り支度をしながら、友達と笑い合ったり、部活へ向かったりしていた。

紗菜は靴を履き替えながら、小さくため息をつく。

紗菜(モノローグ)
「……はぁ、なんか今日は疲れた」

昼休みの翼の挑戦が、まだ頭から離れない。
ふと頬に手を当てると、まだ熱が残っているような気がして、慌てて手を下ろした。

(なに考えてるのよ、私……!!)

そんな自分を振り払うように、勢いよく靴箱を閉める。
そのとき――。

翼「おっ、ちょうどいいとこで会えた」

紗菜「!?」

すぐ隣から聞こえた軽い声。
驚いて顔を向けると、翼が笑顔で立っていた。

紗菜「……なんでいるのよ」

翼「いや、たまたまだよ? たまたま帰ろうと思ったら、お前がいたってだけ」

翼はポケットに手を突っ込みながら、どこか楽しそうに言う。

紗菜「ふーん……」

紗菜(モノローグ)
「嘘くさい……」

紗菜はじとっとした目で翼を見るが、本人は気にする様子もなくニコニコしている。

翼「で、帰るよな?」

紗菜「……は?」

翼「一緒に帰るんだよ、俺たち」

紗菜「はぁ!? なんでよ!!」

思わず声を上げると、周囲の生徒たちが「え?」とこちらを見てくる。
紗菜は慌てて小声にする。

紗菜(小声)「ちょっと、そんなこと言わないでよ……!」

翼「別にいいじゃん、昔みたいに一緒に帰るだけだろ?」

紗菜「む、昔って……小学校の頃の話でしょ!? 今は違うの!!」

翼「いやいや、俺たちの関係は変わってないし?」

紗菜「変わってるわよ!!」

翼は笑いながら、「そんなに拒否しなくてもいいじゃん」と呟く。
紗菜はため息をつき、逃げるように歩き出した。

紗菜「もういい! じゃあね!!」

翼「あ、待てって」

翼は軽やかに紗菜の隣に並ぶと、そのまま同じペースで歩き始める。

紗菜「……ついてこないで」

翼「いや、俺もこっち方向だし」

紗菜「……っ」

(なんなの、こいつ……!)

翼の顔を見ると、ニヤニヤと楽しそうにしている。
完全にからかっている顔だ。

でも――翼が歩幅を紗菜に合わせていることに、紗菜は気づいてしまった。
いつも適当そうに見えて、こういうところが妙に気が利くのがずるい。

翼「そういや、今日の昼休みの罰ゲーム、決まったから」

紗菜「はぁ!? まだ引きずるの!?」

翼「当たり前だろ? 勝負の結果はちゃんと守らないとな~」

紗菜「……で、何よ?」

翼「んー、そうだな……」

翼は少し考えるふりをしてから、ニヤッと笑った。

翼「“一日だけ、俺の彼女”な」

紗菜「――!!?」

その瞬間、紗菜の足が止まる。
そして、翼の顔を呆然と見つめる。

紗菜「は、はぁ!??」

翼「いや、別に大したことじゃなくね? たった一日、俺に付き合ってくれるだけでいいんだよ?」

まるで些細なことのように言う翼。

紗菜「いやいやいやいや、絶対おかしいでしょ!?!?」

翼「おかしくないって。俺の“惚れさせる”計画の一環だから?」

そう言って、翼は目を細める。

紗菜は何か言い返そうとするが、上手く言葉が出てこなかった。
放課後の静かな道に、二人のやりとりだけが響いていた。
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