惚れさせゲーム
〇 教室(朝のHR前)

紗菜が翼に振り回されている間に、教室のざわめきはどんどん大きくなっていった。
そこへ、長い黒髪をポニーテールにした少女がすっと近づいてくる。

桃羽「……おはよう、紗菜。朝からすごいことになってるけど?」

松島桃羽――紗菜の親友で、テストは赤点だらけだが、運動神経は抜群。
普段は冷静で落ち着いている彼女だが、今はどこか呆れたように紗菜を見ている。

紗菜「……私が聞きたいくらいだよ」

深いため息をつく紗菜。

翼「おっ、松島。おはよー!」

翼が気軽に手を振るが、桃羽はじとっと睨んだ。

桃羽「……朝から何やってんの?」

翼「んー、彼女に挨拶しただけだけど?」

そう言って、翼は紗菜の肩に軽く腕を回す。
その瞬間、紗菜の顔が一気に赤くなった。

紗菜「やめろバカ!!!」

勢いよく翼の腕を振り払うと、桃羽はクスッと笑った。

桃羽「ふーん。まあ、翼がまた変なことしてるのはいつものこととして……紗菜、本当に大丈夫?」

紗菜「私はぜんっぜん大丈夫じゃない!! 早くこの状況をどうにかしたい!!」

翼「え~? でももう教室中に広まっちゃったしなぁ。今日は紗菜に俺の彼女として、しっかり頑張ってもらうし?」

翼がからかうように言うと、紗菜は机に頭を打ち付けたくなるほどの気分だった。

(本当に最悪……!!)

そんな彼女を見て、桃羽はクスッと笑うと、翼をじっと見つめた。

桃羽「ねえ、桃瀬。あんまり紗菜をからかってると、本当に惚れさせちゃうかもよ?」

その言葉に、翼は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいたずらっぽい笑みを浮かべた。

翼「へぇ、そうなったら面白いかもな?」

そう言って、翼はまた紗菜に近づく。
紗菜は必死に後ずさりながら、思った。

紗菜(モノローグ)
(もう……本当に勘弁して……!!)

こうして、紗菜の“最悪な一日”は、まだ始まったばかりだった――。
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