惚れさせゲーム
30秒間、目をそらさずに
〇 学校・教室(昼休み)

昼休みのチャイムが鳴り、教室内はざわめき始める。

生徒たちは弁当を広げたり、購買へ向かったり、思い思いの時間を過ごしていた。

しかし、三峰紗菜はそんな喧騒をよそに、黙々と机にノートを広げ、数学の問題を解いていた。

紗菜(モノローグ)
「さっきの授業……悔しい」

数学の時間に行われた即興バトル――負けたことが、まだ引っかかっている。

紗菜(モノローグ)
「次こそ……絶対に勝つ」

しかし、その決意を邪魔するかのように、ふいに目の前が影に覆われた。

翼「やあ、三峰さん。お勉強中?」

紗菜「……何の用?」

顔を上げると、桃瀬翼がいつもの軽い調子で微笑んでいる。

翼「いや~、さっきの勝負、俺の勝ちだったよな?」

紗菜「……だから何?」

翼「勝者には敗者に“罰ゲーム”を課す権利があると思うんだよね」

紗菜「はぁ!? そんなルール聞いてないんだけど!」

翼「今決めた」

紗菜「勝手に決めるないで!」

翼「まあまあ、じゃあ救済措置として――」

翼はニヤリと笑うと、唐突に紗菜の顔へと顔を近づけた。

翼「この距離で、30秒間目をそらさずに俺の目を見続けること。できる?」

紗菜「はぁっ!??」

思わず机をバンッと叩く紗菜。
何を言い出すのかと思えば、そんな……!

紗菜「ふ、ふざけないで! そんなの、何の意味があるのよ!」

翼「意味? 俺が決めたルールに意味なんかあるわけないじゃん?」

紗菜「……!」

紗菜(モノローグ)
「こいつ……マジでムカつく!!」

でも、ここで「できない」と言ったら負けた気がする。
翼に「ほら、意識してる~」なんて言われるのは絶対に嫌だ。

紗菜はグッと拳を握りしめると、大きく息を吸った。

紗菜「いいわよ……やってやるわ」

翼「おお、いいね~! じゃあ、よーい……スタート!」

翼は再び紗菜との距離を詰める。
目の前にあるのは、ふざけた笑みを浮かべる彼の顔。
思ったより近い……いや、近すぎる!!

紗菜(モノローグ)
「こ、こんなの……普通の顔で耐えられるわけないでしょ!!」

しかし、紗菜は必死に目をそらさないように耐える。

紗菜(モノローグ)
「落ち着け……私は別に、こいつにときめいてるわけじゃない。ただの挑戦。ただの勝負……!」

そう思えば思うほど、心臓が変な音を立てる。
翼の瞳はまっすぐこちらを見つめていて、いつものふざけた雰囲気とは違う。

紗菜(モノローグ)
「な、なんか……意外と、ちゃんとした顔してる……?」

翼「へぇ~、思ったより頑張るね」

紗菜「当たり前でしょ……!」

必死に平静を装うが、鼓動はどんどん速くなっていく。

翼「でもさぁ、こうやってずっと見つめ合ってると……」

翼の顔がさらに少しだけ近づく。

翼(低く囁くように)「キスしたくなったりしない?」

紗菜「――!!?」

思考が一瞬でフリーズする。

紗菜(モノローグ)
「な、何言ってるの!? バカなの!?!?」

その瞬間、限界が訪れた。
紗菜は勢いよく顔を背け、机に突っ伏した。

紗菜「む、無理!!」

翼「あーあ、負けちゃったね?」

翼は肩をすくめ、満足そうに笑っている。

紗菜「……ッ!! ば、ばかっ!! こんなの、挑戦でもなんでもない!!」

翼「いやいや、これは“惚れさせる”計画の一環ですよ?」

翼はひょうひょうとした態度で言うと、ポケットからスマホを取り出しながら席を立つ。

翼「じゃ、罰ゲームの内容は後で考えとくわ。お楽しみに~」

紗菜「っ……!!」

去っていく翼の背中を睨みながら、紗菜は心の中で叫ぶ。

紗菜(モノローグ)
「ぜっっったいにこいつには惚れない!!」

しかし、熱くなった顔と、胸の鼓動の速さが、それを否定しているような気がした――。
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