由良くん、愛さないで
「あすかさん、あなたに新たな任務を与えます」
つめたい主様の声がわたしの鼓膜を震わす。
主様のお顔は暗闇に隠れていてよく見えない。
もう六年以上の付き合いだというのに、わたしは一度も主様のお顔を見たことがない。
正体がわからない主様の前に、わたしは無表情で佇んでいた。
この人のことを怖いとも、恐ろしいとも思わない。
────いや、思えなくなった。
「楪葉由良という人物を暗殺してください」
「───はい。承知いたしました」
わたしはそっと呟いた。
その人を殺さなければならない理由も、その人が一体どんな罪を犯したのかも知らないまま。
わたしたち殺し屋は主様の仰せのままに任務を遂行する。
それはまるで、魂を失った屍のようだ。
わたしはこの時初めて、自分のことをおそろしく感じた。