由良くん、愛さないで
わたしはクラスメイトに背中を向け、黒板にチョークを走らせる。
『橋呉あすか』
「橋呉あすかです。今日からこの学園で学ばせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします」
わたしはそう言って深く頭を下げた。
教室中に拍手が響き渡る。
「それでは皆さん。今日から新しい仲間が加わったということで、より一層気を引き締めて勉学に励みましょう」
さすが名門校と言うべきか……ここで『仲良くしましょう』という言葉が出てこない。
「橋呉さんは楪葉くんの隣の席に座ってください」
わたしは先生の言葉に頷き、教室の後方へと足を動かした。
最初から楪葉由良に接近できるなんて、ツイてる。
楪葉由良はわたしの方を見ない。
ただぼーっと、先ほどと同じように窓の外を見ていた。
わたしは音を立てずに椅子を引き、そっと腰を下ろす。
どんな動作にも音を立てない。
いつしか身についてしまったこの習慣。