由良くん、愛さないで
「申し訳ありません、橋呉さん」
「不快な気分にさせてしまったわよね。本当に申し訳ございません」
安堂さんと雅緋さんが同情のこもった目でわたしを見つめる。
それも想定内のことだったからわたしはなんとも思わない。
わたしの心の中は、常に波立たない水面のように穏やかで、そして味気ない。
「いいえ、大丈夫ですよ。もう何年も前のお話ですので」
お嬢様方とお話するにつれ、わたしも自然と丁寧な言葉遣いが身についてくる。
わたしは庶民の中でも底辺の位置にいる人間だけれど、物覚えは人よりも何倍も早いと自負している。
「少し暗くなってしまいましたね……話題を変えましょう。橋呉さんのことをもっと教えていただけないでしょうか」
安堂さんが明るい口調でそう言う。
まだ話を続けるということは、わたしを自分たちと同等の存在と見なしてくれたということだ。
わたしは〝殺し屋〟という素顔を暴かれないよう最善の注意を払いながら二人に自己紹介をした。
───隣にいるターゲットに、気づかれないように。