悪女だってヒロインになりたいんです。
「…バイトは、どうなんだ」

「…え?」


どうしようかと頭を必死に働かせていると、先に沈黙を破ったのは棗だった。

きっと気を遣ってくれたんだ。


「店長さんもいい人だし、バイトの人たちもみんな優しくてやっていけそうだったかな。あと同い年の子がいて、話しやすいし教え方もうまくてすごく助かった」

「そうか」


終わってしまいそうな会話の雰囲気に慌ててもう一度口を開く。


「棗とは真逆の爽やかイケメンって感じの子で、今日もその子目当てで来てたお客さんが数人いて忙しくて初日から大変だったんだ」

「…男?」


言ってから、棗の表情がすっと真顔になり「あ、失敗した」と直感する。

棗と比べるなんて失礼だし、私の大変だった話なんてしてどうなる。

無言になるよりはマシだと思って何も考えずに口にしてしまったけど、これは怒らせたかも…。


「ぎゃははっ、それで二件目どこ行く〜?」


ふと前からやってきた集団のサラリーマンのうちの一人が、酔っ払っているのかふらふらと不安定な体勢で歩いていたかと思うとぐらりとこちらに傾いてきた。
< 58 / 101 >

この作品をシェア

pagetop