猫は、その恋に奇跡を全振りしたい

第三章 二人の心の電波



何とか、学校の敷地内に入り込んでしまった猫たちを保護した後。
帰宅して、自分の部屋で改めて、今日、起きた出来事を頭の中で整理してみた。
できるだけ、冷静に。
いくつか推測を立ててみる。
まず、月果て病の患者には、ごく稀に奇跡が起こることがある。

クロム憑き――。

でも、はっきりとは分からないけれど、クロム憑きになった人たちはみんな、月果て病で亡くなった人たちのために奮闘しているわけじゃない。
未練を晴らさなくては、元の姿に戻れないから仕方なくやっている人。
そして、渚くんのように、未練を晴らさずにロスタイムの継続を望む人もいるかもしれない。

「ごく稀の奇跡だから、よく分からないけど……」

わたしはテーブルに置いている『家庭用プラネタリウム』に目を向ける。
家庭用プラネタリウムは、お父さんがわたしのために買ってきてくれた誕生日プレゼントだ。
仕事が忙しいお父さんとは、ほとんど顔を合わせないけど、いつもこっそりプレゼントをくれる。
だから、大丈夫って思える。
わたしは部屋を暗くすると、家庭用プラネタリウムのスイッチを入れた。

その瞬間、天井に投影されたのは満天の星空。

星が溢れている。
天井にたくさんの星が咲いている。
ひとつだけでは広大な夜闇に埋もれて見落とされてしまうような、小さな光が無数に散りばめられていた。
きらびやかに飾られた星屑の空。
歌うように輝いて、部屋を光で包んでいる。

「クロム憑き。たとえ、どんな道を選んだとしても、愛しい奇跡は確かにそこにあるから」

わたしは天井に手を伸ばして、今の言葉をじっくりと咀嚼した。

愛しい奇跡。

今井くんが渚くんのクロム憑きにならなかったら、わたしはこうして渚くんと再会することはなかった。
そう思うと、何だか不思議な感じがした。
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