猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
(今の渚くんに夢の中で初めて会った頃は、ひたすら緊張して、渚くんのこと、見ているようで、ちゃんと見れてなかった)

初めて出会った時から続く、渚くんの知らないわたしのこれまでの想い。

(今も緊張はするけど、あの頃とは違って嬉しい気持ちの方が大きい)

渚くんは、わたしにとってはずっと、最初からかっこいい男の子で。
ずっと、最初からずっと。
ずっと今日まで、特別な男の子で。
渚くんに会えて嬉しいって、心が叫ぶ。

……何だか、不思議な気持ちだ。

ベンチに座り込んで思案する頭にふわり、柔らかな感覚が降った。
伸ばした指先に触れたのは、丁寧に編んだ花かんむり。
瞬く瞳に映るのは、

「冬華」

渚くんのどこまでも優しくて柔らかな微笑みだった。

「これ、作ってみたんだけれど、どうかな?」
「わたしに? 渚くん、ありがとう」

花のかんむりを受け取ったわたしは、その出来栄えに見とれてしまう。
花のかんむりは繊細な作りをしており、とても愛らしかった。
それを壊さぬように眺めながら、わたしはわずかに目を細める。

「すごく嬉しい……。花かんむり、どうしたの?」
「公園の近くに花畑があったから、作ってみたんだ」

さらに壊さぬように、とおそるおそるつければ、まるでお姫様のようだ。
世界の輪郭がきらめいて、温かい光で満ちていく。

――不思議な奇跡だ。

今日だけで、ぽっかり抜けていた現実の一ヶ月が埋まっていくような気がする。

現実と夢。
一日、渚くんといてすごく楽しかった。
ずっと楽しかった。

渚くんの隣は居心地が良くて、気を抜いたら泣いてしまいそうだった。

(今の渚くんを手放したくないと思うのは、ただの当たり前で特別じゃないはず)

……うん、そうだ。
渚くんはいつだって、その瞳の奥で空の果てを見つめている。
温かな眼差し。
あの頃と同じ姿に胸がざわめく。
渚くん、お願い。
これからも、わたしを置いて変わらないで。

「わたしは今も昔も、渚くんのことが好き。今の渚くんは、わたしの手を離さないでね」
「ああ。約束するよ」

わたしたちは指切りして約束した。
確かに、この世界に存在する約束だった。
あの頃と同じ渚くんに、わたしは二度目の恋をした。
喜びも悲しみも、希望も不安も、ぜんぶ抱きしめて。

見ているよ、ずっと。
好きだったよ、ずっと。
かけがえのない気持ちが、これからも渚くんに届きますように――。

それは、わたしたちが何度だって出会うために必要な誓いだった。
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