猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
第一章 一緒にいた時間のすべて
世の中にはまだまだ、未知の病がある。
原因不明の病気が、あちらこちらで蔓延している。
様々な医療機関の研究施設が、未知の病に効く対抗薬を開発していた。
四年前。
わたしたちが住む町に、未知の病が流行し始めた。
――月果て病。
この病気にかかってしまったら、どうあがいても死から逃れられない。
余命は一ヶ月。
体の一部に突如、月の紋様のような奇妙な痣が浮き出した後、次第に生気を奪われ、そのまま亡くなってしまう異様な病。
難病……でも、ごく稀に奇跡が起こることがある。
少しずつ近づく秋の気配、空はそんなキャンバスに彩りを添えるように優しい。
夏休みが終わったばかりで、ただでさえ、ゆううつだった始業式。
蓮見中学校の1年2組のクラスに思わぬ事件が起こった。
「今朝、安東渚くんが亡くなりました」
担任の天橋先生がそう告げると、騒がしかった教室は水を打ったように静まり返った。
渚くんは一ヶ月前に月果て病にかかり、町の大きな病院に入院していた。
だけど、今朝、容態が急変し、すぐに緊急処置が行われたものの、渚くんの身体は病に蝕まれ、そのまま息を引き取ってしまったという。
心臓は止まり、呼吸も止まり、生命活動も停止した。
「…………っ」
天橋先生の説明を、わたし、桐谷冬華はただ茫然として聞いていた。
目の前が、絶望で塗りつぶされる。
だって、渚くんが死んだなんて信じられなかったから。
猫が大好きな男の子で、わたしと同じ猫巡り部所属。
成績優秀で、容姿はさわやか。
渚くんは明るくて人望もあり、いつもクラスの中心にいた。
彼の周りでは常に笑顔が溢れていた。
そして、わたしにとって、大切な幼なじみであり、クラスメイトであり……そして、かけがえのない人。
わたしは渚くんが好きだった。
手を伸ばせば、届く距離。
この距離がどうしようもなく遠くて。
好きのタイミングが合わず、結局、空回りに終わってしまった。
あんなに恋い焦がれていたのに。
想いを伝えることすらできないまま、恋の芽が閉じてしまった。
幸せは、いつまでも続かない。
人はいつだって、失ってから後悔する。
この日、渚くんはこの世から消えてしまった。
それが、全ての始まりだった――。
原因不明の病気が、あちらこちらで蔓延している。
様々な医療機関の研究施設が、未知の病に効く対抗薬を開発していた。
四年前。
わたしたちが住む町に、未知の病が流行し始めた。
――月果て病。
この病気にかかってしまったら、どうあがいても死から逃れられない。
余命は一ヶ月。
体の一部に突如、月の紋様のような奇妙な痣が浮き出した後、次第に生気を奪われ、そのまま亡くなってしまう異様な病。
難病……でも、ごく稀に奇跡が起こることがある。
少しずつ近づく秋の気配、空はそんなキャンバスに彩りを添えるように優しい。
夏休みが終わったばかりで、ただでさえ、ゆううつだった始業式。
蓮見中学校の1年2組のクラスに思わぬ事件が起こった。
「今朝、安東渚くんが亡くなりました」
担任の天橋先生がそう告げると、騒がしかった教室は水を打ったように静まり返った。
渚くんは一ヶ月前に月果て病にかかり、町の大きな病院に入院していた。
だけど、今朝、容態が急変し、すぐに緊急処置が行われたものの、渚くんの身体は病に蝕まれ、そのまま息を引き取ってしまったという。
心臓は止まり、呼吸も止まり、生命活動も停止した。
「…………っ」
天橋先生の説明を、わたし、桐谷冬華はただ茫然として聞いていた。
目の前が、絶望で塗りつぶされる。
だって、渚くんが死んだなんて信じられなかったから。
猫が大好きな男の子で、わたしと同じ猫巡り部所属。
成績優秀で、容姿はさわやか。
渚くんは明るくて人望もあり、いつもクラスの中心にいた。
彼の周りでは常に笑顔が溢れていた。
そして、わたしにとって、大切な幼なじみであり、クラスメイトであり……そして、かけがえのない人。
わたしは渚くんが好きだった。
手を伸ばせば、届く距離。
この距離がどうしようもなく遠くて。
好きのタイミングが合わず、結局、空回りに終わってしまった。
あんなに恋い焦がれていたのに。
想いを伝えることすらできないまま、恋の芽が閉じてしまった。
幸せは、いつまでも続かない。
人はいつだって、失ってから後悔する。
この日、渚くんはこの世から消えてしまった。
それが、全ての始まりだった――。