猫は、その恋に奇跡を全振りしたい


世界が変わるきっかけというのは、いつ訪れるかは分からない。
少なくとも、今日、猫巡り部に新たな部員が入ってくるなんて、思いもしなかっただろう。

「うん。よし、これで入部完了だよ! じゃあ、自己紹介もよろしくね!」

目の前の用紙を奪うようにして手にした井上先輩が、嬉しそうに声を弾ませる。
ひらひらと揺れる用紙には、書き終えたばかりの鹿下くんの名前が記されていた。

「改めて、1年3組の鹿下克也です。よろしくお願いします」

猫巡り部の入部手続きを済ました後、鹿下くんはぺこりと頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくね。私は三年生の井上つむぎ。一応、猫巡り部の部長だよ」

井上先輩は明るい声を上げる。

「鹿下くんは、安東くんと桐谷さんは知っているよね」
「はい」

井上先輩の問いかけに、鹿下くんは眉をハの字にしながらもうなずいた。

「あとのメンバーは……」

井上先輩が弾んだ足取りで、他の部員を紹介していく。
その明るい声を聞きながら、わたしは何とはなしに部室を見回した。
授業では使われていない一室を利用した猫巡り部の部室は、様々なもので溢れ返っている。
猫に関する品物やパソコン。
中には一体、何に使うんだろうと思ってしまうものも、ちらほらある。
それでも、このぜんぶが、猫巡り部にとっては大切なもので。
ここにある全てが、猫巡り部にとって欠かせないものだった。

「鹿下くんって突然、猫巡り部に入部したり、何を考えているのか、よく分からない」

少し不機嫌そうに言うと、渚くんは目を丸くした。

「冬華、ちょっといいかな?」
「うん」

唐突な問いかけに驚きながらも、迷うことなくうなずいた。

「ああ見えて、克也はいい奴だよ」
「……えー、そうかな? どこがそんなにいいの? まさか、雨の日に捨て猫を拾う姿を見たからとか言わないよね」
「そうだよ」

そう息巻くわたしに、渚くんはほのかに微笑んで答えた。

「ええっ!? 意外かも」

その答えを予想していたのだろう。
渚くんは苦笑している。
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