猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
「克也は、猫が好きなんだ。以前、子猫を拾って帰ってきたこともあるんだよ」
予想外な言葉が、渚くんの口からこぼれた。
(鹿下くんが……?)
説明を求めるように、わたしは渚くんを見た。
戸惑うわたしに、渚くんは嬉しそうに続ける。
「大雨が降り続いた……雨上がりの夕方、道路の真ん中に子猫が倒れているのを見つけたんだって。子猫の体は冷えていて、わずかに動く程度。このままでは車にひかれてしまうと思って、大急ぎで抱きかかえて、家に連れて帰ってきたらしいよ」
「そ、そうなんだ……」
渚くんの話に、わたしはぎこちない相槌を打つ。
渚くんの知らないはずの鹿下くんの話。
でも、それは今井くんの過去の話でもあって、少し複雑な気分になってしまう。
「鹿下くん、ほんとに猫が好きなんだね」
「ああ。いい奴なんだ。俺にとって、大切な親友だよ」
その目は、わたしも知っている優しさに満ちていた。
だけど、その目を見た時、何故だろう。
少しだけ胸が痛んだ。
わたしは感じた、その胸の痛みを頭から追い出すと、
「……渚くんの親友。わたしの知らない渚くんの親友」
出した答えを確かめるように、開け放たれた窓から校庭を見る。
空には、今朝まで降り続いた雨を忘れてしまったかのような青空が広がっていた。
でも、青空は見えているのに、心は青空にない。
心は渚くんでいっぱいで。
ずっと頭がふわふわして、表情も情緒も管理できない。
(わたし、幼なじみなのに、今の渚くんのことを知らない。でも、渚くんはやっぱり、渚くんだから。今の渚くんのことも、知りたいって思ってしまう)
学校で好きな男の子の話になった時、いつも頭に浮かぶのは渚くんだった。
渚くんを好きな気持ちは道標のように、どこまでもまぶしく光っている。
目を離している今も、渚くんの顔と声がずっと浮かんでいた。
ずっと繰り返している。
何回も、何回も。
まるで恋の花が芽吹くように。
恋の花は可憐だけど、それだけではない。
温かい陽の光のように、一緒に包み込めたらいい。
そんなふうに、わたしは思った。
予想外な言葉が、渚くんの口からこぼれた。
(鹿下くんが……?)
説明を求めるように、わたしは渚くんを見た。
戸惑うわたしに、渚くんは嬉しそうに続ける。
「大雨が降り続いた……雨上がりの夕方、道路の真ん中に子猫が倒れているのを見つけたんだって。子猫の体は冷えていて、わずかに動く程度。このままでは車にひかれてしまうと思って、大急ぎで抱きかかえて、家に連れて帰ってきたらしいよ」
「そ、そうなんだ……」
渚くんの話に、わたしはぎこちない相槌を打つ。
渚くんの知らないはずの鹿下くんの話。
でも、それは今井くんの過去の話でもあって、少し複雑な気分になってしまう。
「鹿下くん、ほんとに猫が好きなんだね」
「ああ。いい奴なんだ。俺にとって、大切な親友だよ」
その目は、わたしも知っている優しさに満ちていた。
だけど、その目を見た時、何故だろう。
少しだけ胸が痛んだ。
わたしは感じた、その胸の痛みを頭から追い出すと、
「……渚くんの親友。わたしの知らない渚くんの親友」
出した答えを確かめるように、開け放たれた窓から校庭を見る。
空には、今朝まで降り続いた雨を忘れてしまったかのような青空が広がっていた。
でも、青空は見えているのに、心は青空にない。
心は渚くんでいっぱいで。
ずっと頭がふわふわして、表情も情緒も管理できない。
(わたし、幼なじみなのに、今の渚くんのことを知らない。でも、渚くんはやっぱり、渚くんだから。今の渚くんのことも、知りたいって思ってしまう)
学校で好きな男の子の話になった時、いつも頭に浮かぶのは渚くんだった。
渚くんを好きな気持ちは道標のように、どこまでもまぶしく光っている。
目を離している今も、渚くんの顔と声がずっと浮かんでいた。
ずっと繰り返している。
何回も、何回も。
まるで恋の花が芽吹くように。
恋の花は可憐だけど、それだけではない。
温かい陽の光のように、一緒に包み込めたらいい。
そんなふうに、わたしは思った。