猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
ほとんど初対面なわたしたち。
決して前向きな答えをくれるわけではないけれど、それでもミルちゃんなりの意志のこもった想いが聞けるのだろう。
なら、わたしは自信を持って笑うことができる。
　
――だから、奇跡が起きた。

「カゾク……」

猫は人生で一度だけ、人の言葉を話せるという。
そのミルちゃんの儚い声を聞いた瞬間に、わたしの心の中で何かが決壊する。

「ミルちゃん！」
「いや……やだぁ……！　目を開けて！」

わたしと井上先輩は荒れ回る気持ちのままに泣き叫んだ。
拳を握りしめて、地面に突っ伏して、わたしたちはいつまでもいつまでも慟哭を響かせる。
その言葉を最後に、ミルちゃんは息を引き取っていた。

「ミル……」

渚くんは苦しそうに、酷な現実に心を痛めている。

「……っ」

鹿下くんは何かを我慢するように唇を噛みしめていた。
この場にいるわたしたち、それぞれが重い感情を抱えている。

去って行った者への、大きな気持ちを持て余しながら。
離れていった存在への、痛切な大切さを思い知りながら。

届くはずもない切実な想いを、それでもわたしたちは心の中で、ずっと語りかけていた。

「……ミルちゃん。少しの間だったけれど、あなたに会えて嬉しかったよ。また、会えたら、次はわたしの家族になってくれる？」

そう願ったとたん、身体の底から湧き上がるように涙が出て止まらなかった。

「さよならは言わないよ。だから、また会おうね」

いつか果てるまで、この想いは消えない。
でも、いつの日か必ず、知るだろう。
胸の内に温かく灯る、この想いの名を。
< 33 / 73 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop