猫は、その恋に奇跡を全振りしたい

第六章 猫と奇跡は紙一重

柔らかな風は、わたしたちをなでて通りすぎていく。
いつの間にか、わたしは夕暮れの歩道橋の真ん中に立っていた。

これはいつもの夢。
夢魂の力によるもの。

空を見上げると、美しい夕焼けがそこにあった。

「冬華」
「渚くん」

渚くんに会えただけで心が弾む。
思わず、駆け寄ってしまう。

「渚くん、どうしよう。お母さんから、ダメって言われた……」

わたしはおどおどとすがるように渚くんを見た。

「冬華、どういうこと?」
「じ、実は……」

わたしはしどろもどろになりながらも、先程の出来事を打ち明ける。
すると、渚くんは少し思案して、切実な表情で言う。

「冬華。冬華の母さんは、猫のために頑張ること、前向きに検討してくれていると思うよ」
「ええっ、どこが!?」

空に溶けるような渚くんの言葉に、わたしは唖然とした。
先程、あれだけ、お母さんは冷たく断ったのに、前向きに検討してくれるって一体……。

「猫巡り部の活動のことを口にしたんだよね。反対しているなら、少なくとも猫巡り部の話は出してこないはずだから」
「あ……」

渚くんに言われて、わたしはようやくその事実に行き着いた。

「そうだったんだ……。お母さん……わたしの話、真剣に聞いてくれていたんだ」
「冬華、焦らないで。少しずつ、認めてもらえるように頑張ろう」

呆然としているわたしに、渚くんは励ますように言った。

「大丈夫だ。冬華には、どんな困難にも負けない勇気があるから」
「……うん。わたし、この望みを絶対に諦めたくない。お母さんが認めてくれるまで、全力で頑張る!」

わたしは決心を固める。
必死に今を生きて、未来の道筋を求めて。
改めて、誓った。
希望を捨てないということを。

「冬華。明日、猫巡り部のみんなに相談してみよう」
「猫巡り部のみんなに?」

その導く声が、わたしの心を落ち着かせていく。

「井上先輩は猫に詳しいし、克也の父さんは保護猫カフェを経営している。猫巡り部のみんな、冬華の力になってくれるはずだ」

その発想はなかった。
わたしが驚いていると、渚くんはわたしの手を握った。

「冬華。俺のすべては、冬華だったと思う」
「えっ?」

心を込めて、奏でるように。
言い淀むこともなく、ただ真っ直ぐに見つめる瞳が、渚くんの意思が変わらないことを伝えている。
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