猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
*
毎朝、目覚まし時計のけたたましい音で、わたしの一日は始まる。
それだけに音を止めるまでの動作は慣れたものだ。
鳴り続けている目覚まし時計を止めて、上半身を起こす。
そして、部屋の中をゆっくりと見渡した。
「そっか。また、あの夢……」
弱々しいつぶやきが、わたしの口からこぼれる。
切なさのような、寂しさのような、言葉に言い表せない何かが、全身に染み渡っていくようだった。
家の外は朝の光で満ちている。
わたしはカーテンを開けて、その眩しさを部屋に取り込んだ。
澄んだ空気をゆっくりと胸に吸い込んで、机に置いてある小箱から、かけがえのない宝物を手に取る。
――それは幼い頃、渚くんがくれた、おそろいのキーホルダー。
心が、もっと……渚くんと繋がっていたいと訴えていたから。
否応なしに過去の記憶が蘇ってくる。
『なぎくん!』
わたしと渚くんは幼なじみだった。
わたしは幼い頃から、渚くんに四六時中、ひっついていた。
公園で遊んだ帰り、わたしたちが家に向かって歩いていると、隣町の小学校のわんぱくそうな男の子が声をかけてきた。
『あー。おまえら、きょうも、いっしょにあるいているな。ふたりは、いつもいっしょかよ』
『うん。なぎくんと、いつもいっしょだよ』
はやしたてる男の子に、わたしは元気いっぱいに答える。
『あっ! なぎくん、待ってー!』
その衝動の赴くままに、わたしは両手をぎゅっと握った。
そして、大好きな渚くんのもとへ駆け出す。
渚くんは絵本に出てくる王子様みたいで……。
わたしの一番特別な人。
そう思っていると、渚くんがそっと、キーホルダーを差し出してきた。
『ふゆか、これあげる』
『えっ……?』
『きょう、たんじょうびだろ? だから、プレゼント。ほら、おれとおそろい』
幸せな過去の余韻が、今日も甘苦しく胸を締めつけている。
あの日、誕生日プレゼントにもらった、渚くんとおそろいのキーホルダー。
嬉しすぎて、もったいなくて、なかなかつけることができなかったんだ。
「あの夢を見た後だからかな。渚くんのことばかり、考えている……」
生々しい夢だった。
風の音も、潮の香りも、指切りした手の温もりも、まるで本当に体験しているように感じられた。
渚くんが一ヶ月前に亡くなってから、ずっと見ている不思議な夢。
夢の中の恋はキラキラしてまぶしくて、羽根が生えたみたいに、心がふわふわしている。
「きっと、夢の中の彼も、わたしと同じ夢を見ているんだろうな」
この夢を見るたび、思い出す。
生まれて初めて、あの不思議な夢を見た時のこと。
実は、わたしには少し変わった力がある。
それは、自分が見ている夢の中に他人を招く力があることだ。
わたしはそれを『夢魂の力』と呼んでいる。
夢は、時空を越えた魂の旅行みたいなものだ。
でも、誰でも夢の中を行き来できるわけではない。
行きやすい人、来られやすい人という特性がある。
ただ、会いたいと思っても会えない。
それ相当の強い想いがないと、やすやすとは会えない。
だから、渚くんが亡くなった一ヶ月前。
わたしは強く強く願った。
切に思った。
渚くんにまた、会いたいと――。
そうして、わたしはこの力で、『わたしの夢の世界』に『渚くんに似た男の子』を招くことに成功した。
毎朝、目覚まし時計のけたたましい音で、わたしの一日は始まる。
それだけに音を止めるまでの動作は慣れたものだ。
鳴り続けている目覚まし時計を止めて、上半身を起こす。
そして、部屋の中をゆっくりと見渡した。
「そっか。また、あの夢……」
弱々しいつぶやきが、わたしの口からこぼれる。
切なさのような、寂しさのような、言葉に言い表せない何かが、全身に染み渡っていくようだった。
家の外は朝の光で満ちている。
わたしはカーテンを開けて、その眩しさを部屋に取り込んだ。
澄んだ空気をゆっくりと胸に吸い込んで、机に置いてある小箱から、かけがえのない宝物を手に取る。
――それは幼い頃、渚くんがくれた、おそろいのキーホルダー。
心が、もっと……渚くんと繋がっていたいと訴えていたから。
否応なしに過去の記憶が蘇ってくる。
『なぎくん!』
わたしと渚くんは幼なじみだった。
わたしは幼い頃から、渚くんに四六時中、ひっついていた。
公園で遊んだ帰り、わたしたちが家に向かって歩いていると、隣町の小学校のわんぱくそうな男の子が声をかけてきた。
『あー。おまえら、きょうも、いっしょにあるいているな。ふたりは、いつもいっしょかよ』
『うん。なぎくんと、いつもいっしょだよ』
はやしたてる男の子に、わたしは元気いっぱいに答える。
『あっ! なぎくん、待ってー!』
その衝動の赴くままに、わたしは両手をぎゅっと握った。
そして、大好きな渚くんのもとへ駆け出す。
渚くんは絵本に出てくる王子様みたいで……。
わたしの一番特別な人。
そう思っていると、渚くんがそっと、キーホルダーを差し出してきた。
『ふゆか、これあげる』
『えっ……?』
『きょう、たんじょうびだろ? だから、プレゼント。ほら、おれとおそろい』
幸せな過去の余韻が、今日も甘苦しく胸を締めつけている。
あの日、誕生日プレゼントにもらった、渚くんとおそろいのキーホルダー。
嬉しすぎて、もったいなくて、なかなかつけることができなかったんだ。
「あの夢を見た後だからかな。渚くんのことばかり、考えている……」
生々しい夢だった。
風の音も、潮の香りも、指切りした手の温もりも、まるで本当に体験しているように感じられた。
渚くんが一ヶ月前に亡くなってから、ずっと見ている不思議な夢。
夢の中の恋はキラキラしてまぶしくて、羽根が生えたみたいに、心がふわふわしている。
「きっと、夢の中の彼も、わたしと同じ夢を見ているんだろうな」
この夢を見るたび、思い出す。
生まれて初めて、あの不思議な夢を見た時のこと。
実は、わたしには少し変わった力がある。
それは、自分が見ている夢の中に他人を招く力があることだ。
わたしはそれを『夢魂の力』と呼んでいる。
夢は、時空を越えた魂の旅行みたいなものだ。
でも、誰でも夢の中を行き来できるわけではない。
行きやすい人、来られやすい人という特性がある。
ただ、会いたいと思っても会えない。
それ相当の強い想いがないと、やすやすとは会えない。
だから、渚くんが亡くなった一ヶ月前。
わたしは強く強く願った。
切に思った。
渚くんにまた、会いたいと――。
そうして、わたしはこの力で、『わたしの夢の世界』に『渚くんに似た男の子』を招くことに成功した。