猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
*
昇りかけた陽の光が顔を照らしてくる朝。
わたしはいつもより早く、校門をくぐった。
昇降口に向かうと、靴を履き替える。
下駄箱を閉めたところで、渚くんが声をかけてきた。
「おはよう、冬華」
「渚くん、おはよう」
わたしたちは朝の挨拶を交わす。
隣に渚くんがいる。
それだけで、わたしの胸はぽかぽかと温かくなった。
だけど……どこかおぼろげな、不思議な夢の内容が脳裏に蘇る。
わたしはちらりと渚くんを見た。
「ねえ、渚くん」
「ん?」
「メールで相談したことだけど、あの夢、どう思う?」
一瞬の迷いもなく、わたしはさらりと渚くんに切り出した。
「まるで、途中で途切れたみたいだったな」
いくらか寂しそうな言葉は、わたしの考えたことと同じだ。
昇降口から教室に着くまでの間に、わたしたちは夢の件を踏まえながら話していく。
わたしは顔を上げると、自分に言い聞かせるように口にする。
「夢のおはなしは、ここで幕を引く……って、もう夢魂の力による夢は見れないってことなのかな?」
「……分からない。……だけど、一つだけ言えることがある」
そう言葉をつけ足すと、渚くんは悲しそうに眉を下げてしまった。
「言えること?」
「もしかしたら、冬華が幼い頃から持っていた夢魂の力は、あの猫が授けた力なのかもしれない」
わたしは息を呑んだ。
わたしたち以外の人が聞いても、何を言っているのか分からないだろう。
その言葉が示すあり得ない憶測に、わたしは震えた。
それはまるで――。
「俺たちが夢の中で出会ったのは、猫神様なのかもしれないな」
渚くんにそう言われて、わたしははっとする。
それって、と予感が追いつく。
わたしは改めて、思い出す。
生まれて初めて、あの不思議な夢を見た時のことを――。
あれは忘れもしない雨上がりの日だった。
わたしは幼い頃、ずっと一人でいるのが嫌で、いつも渚くんの家にお世話になっていた。
その日も、わたしは小学校から家に帰ると、すぐに雲の去りつつある町へ飛び出す。
ぽつり、ぽつり。
風に乗って一滴二滴、名残りの涙みたいに飛んでくる水滴。
切れ切れの雲の合間から、陽の光が天使のわっかみたいに伸びている。
濡れた町並みは光を反射して、あちらこちらでお天気の神様が魔法をかけて回っているようだった。
自然と、わたしの足取りは弾む。
わたしの家と渚くんの家の間は、通いなれた道だった。
いつものビルの間を抜け、いつものお店の角を曲がっていく。
やがて、見えてきた渚くんの家。
思わず、足に力が入ったけど……。
『にゃ……』
その時、足元で猫が鳴いた。
ふわりと寄り添って来た温もりを見下ろせば、それは猫だった。
昇りかけた陽の光が顔を照らしてくる朝。
わたしはいつもより早く、校門をくぐった。
昇降口に向かうと、靴を履き替える。
下駄箱を閉めたところで、渚くんが声をかけてきた。
「おはよう、冬華」
「渚くん、おはよう」
わたしたちは朝の挨拶を交わす。
隣に渚くんがいる。
それだけで、わたしの胸はぽかぽかと温かくなった。
だけど……どこかおぼろげな、不思議な夢の内容が脳裏に蘇る。
わたしはちらりと渚くんを見た。
「ねえ、渚くん」
「ん?」
「メールで相談したことだけど、あの夢、どう思う?」
一瞬の迷いもなく、わたしはさらりと渚くんに切り出した。
「まるで、途中で途切れたみたいだったな」
いくらか寂しそうな言葉は、わたしの考えたことと同じだ。
昇降口から教室に着くまでの間に、わたしたちは夢の件を踏まえながら話していく。
わたしは顔を上げると、自分に言い聞かせるように口にする。
「夢のおはなしは、ここで幕を引く……って、もう夢魂の力による夢は見れないってことなのかな?」
「……分からない。……だけど、一つだけ言えることがある」
そう言葉をつけ足すと、渚くんは悲しそうに眉を下げてしまった。
「言えること?」
「もしかしたら、冬華が幼い頃から持っていた夢魂の力は、あの猫が授けた力なのかもしれない」
わたしは息を呑んだ。
わたしたち以外の人が聞いても、何を言っているのか分からないだろう。
その言葉が示すあり得ない憶測に、わたしは震えた。
それはまるで――。
「俺たちが夢の中で出会ったのは、猫神様なのかもしれないな」
渚くんにそう言われて、わたしははっとする。
それって、と予感が追いつく。
わたしは改めて、思い出す。
生まれて初めて、あの不思議な夢を見た時のことを――。
あれは忘れもしない雨上がりの日だった。
わたしは幼い頃、ずっと一人でいるのが嫌で、いつも渚くんの家にお世話になっていた。
その日も、わたしは小学校から家に帰ると、すぐに雲の去りつつある町へ飛び出す。
ぽつり、ぽつり。
風に乗って一滴二滴、名残りの涙みたいに飛んでくる水滴。
切れ切れの雲の合間から、陽の光が天使のわっかみたいに伸びている。
濡れた町並みは光を反射して、あちらこちらでお天気の神様が魔法をかけて回っているようだった。
自然と、わたしの足取りは弾む。
わたしの家と渚くんの家の間は、通いなれた道だった。
いつものビルの間を抜け、いつものお店の角を曲がっていく。
やがて、見えてきた渚くんの家。
思わず、足に力が入ったけど……。
『にゃ……』
その時、足元で猫が鳴いた。
ふわりと寄り添って来た温もりを見下ろせば、それは猫だった。