猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
『ねこさん、どうしたの? もしかして、はぐれたの?』
そっと抱き上げ、わたしは周囲を見回す。
飼い主らしい人物はどこにもいない。
猫は息を切らして、どこか苦しそうだ。
無性に寂しさを漂わせている目。
このまま、放っておけば、大変なことになるかもしれない。
(たいへん、なぎくん……!)
咄嗟にお守りのように胸に叫んだのは、大好きな人の名前だった。
渚くんの名前に勇気をもらって、一歩踏み出す。
そのまま、渚くんの家に行くと、渚くんのお父さんが車で動物病院まで連れていってくれた。
『もう、大丈夫ですよ』
『よかった』
『ふゆか、よかったね』
猫の容態を見てくれた先生の言葉に、わたしと渚くんは手を取り合って安堵する。
でも、あの後、元気になった猫は突然、わたしたちの前から姿を消してしまった。
落ち込むわたしを励ますように、その夜から不思議な夢を見るようになったんだ。
まるで、助けた猫が、小さな奇跡で恩返しをしているように――。
あの猫のことを思い出すと、うっすらと胸が熱くなる。
この熱が、どんな感情の生み出すものかは分からない。
だけど、予想もしていなかった真実に、わたしは思わず、目の奥が熱くなってしまった。
「ねえ、渚くん、覚えている? 雨上がりの日、わたしが連れてきた猫のこと」
「ああ、もちろん。……冬華、あの時、必死に泣きながら、俺たちに助けを求めてきたからな」
そこで渚くんも、わたしと同じ答えに行き着いたみたいだ。
「あっ……。もしかして……!」
「……うん。あの時、保護した猫はきっと……猫神様。『夢魂の力』は、猫神様が恩返しで授けてくれた奇跡だったと思う」
その言葉の意味を理解した瞬間、目頭の奥にじんわりとした熱が生まれた。
わたしの視界がぼやけていく。
だけど、思いっきり泣き出してしまいたいような心地ではなく、何だか気持ちは穏やかなままだった。
……今まで夢魂の力で、猫神様が恩返しをしてくれてた。
それが多分、全てだった。
嬉しいのに、切なくて、寂しくて、それでも、その全てが優しさに包まれているような気がして。
わたしは少しだけ、頬を緩めてしまう。
「わたしたちが同じ夢を見ていたのも、猫神様が叶えてくれた奇跡」
「不思議な絆だな」
渚くんはほろ苦く微笑む。
「もう、猫神様とは会えないのかな?」
「また、会えると思うよ」
――即答だった。
わたしは渚くんの答えに、きょとんと目を瞬かせる。
「また、会える?」
「もうすぐ、猫神祭りがあるだろ」
「あっ、そっか! そこでまた、会えるかもしれないんだね!」
そう願うことは、わたしたちにとっては格別なものに違いない。
だけど、今はしばらくこうして、猫神様がくれた奇跡を噛みしめていたい。
大好きな人とゆっくり。
とろけてしまいそうな、この時間を――。
そっと抱き上げ、わたしは周囲を見回す。
飼い主らしい人物はどこにもいない。
猫は息を切らして、どこか苦しそうだ。
無性に寂しさを漂わせている目。
このまま、放っておけば、大変なことになるかもしれない。
(たいへん、なぎくん……!)
咄嗟にお守りのように胸に叫んだのは、大好きな人の名前だった。
渚くんの名前に勇気をもらって、一歩踏み出す。
そのまま、渚くんの家に行くと、渚くんのお父さんが車で動物病院まで連れていってくれた。
『もう、大丈夫ですよ』
『よかった』
『ふゆか、よかったね』
猫の容態を見てくれた先生の言葉に、わたしと渚くんは手を取り合って安堵する。
でも、あの後、元気になった猫は突然、わたしたちの前から姿を消してしまった。
落ち込むわたしを励ますように、その夜から不思議な夢を見るようになったんだ。
まるで、助けた猫が、小さな奇跡で恩返しをしているように――。
あの猫のことを思い出すと、うっすらと胸が熱くなる。
この熱が、どんな感情の生み出すものかは分からない。
だけど、予想もしていなかった真実に、わたしは思わず、目の奥が熱くなってしまった。
「ねえ、渚くん、覚えている? 雨上がりの日、わたしが連れてきた猫のこと」
「ああ、もちろん。……冬華、あの時、必死に泣きながら、俺たちに助けを求めてきたからな」
そこで渚くんも、わたしと同じ答えに行き着いたみたいだ。
「あっ……。もしかして……!」
「……うん。あの時、保護した猫はきっと……猫神様。『夢魂の力』は、猫神様が恩返しで授けてくれた奇跡だったと思う」
その言葉の意味を理解した瞬間、目頭の奥にじんわりとした熱が生まれた。
わたしの視界がぼやけていく。
だけど、思いっきり泣き出してしまいたいような心地ではなく、何だか気持ちは穏やかなままだった。
……今まで夢魂の力で、猫神様が恩返しをしてくれてた。
それが多分、全てだった。
嬉しいのに、切なくて、寂しくて、それでも、その全てが優しさに包まれているような気がして。
わたしは少しだけ、頬を緩めてしまう。
「わたしたちが同じ夢を見ていたのも、猫神様が叶えてくれた奇跡」
「不思議な絆だな」
渚くんはほろ苦く微笑む。
「もう、猫神様とは会えないのかな?」
「また、会えると思うよ」
――即答だった。
わたしは渚くんの答えに、きょとんと目を瞬かせる。
「また、会える?」
「もうすぐ、猫神祭りがあるだろ」
「あっ、そっか! そこでまた、会えるかもしれないんだね!」
そう願うことは、わたしたちにとっては格別なものに違いない。
だけど、今はしばらくこうして、猫神様がくれた奇跡を噛みしめていたい。
大好きな人とゆっくり。
とろけてしまいそうな、この時間を――。