猫は、その恋に奇跡を全振りしたい


放課後、わたしは猫巡り部のみんなに、昨日の件を報告した。
改めて、猫に関することを相談するためだ。

「にゃー! なるほど、そうきたかー。猫を飼うより、猫巡り部の活動をもっと頑張れと! それが猫のためになると訴えているわけだね!」

くるり、井上先輩はその場で回転してみせる。
猫耳のついた衣装。
ひらりとワンピースの裾が舞う、魔女の格好をしていた。

「トリック・オア・トリート! お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ!」
「お菓子なんてねぇよ!」

井上先輩の言い分に、鹿下くんはさっと目を逸らした。

「猫神祭りは、ハロウィンの日に開催される。だからって、仮装するの、早すぎだろ!」

鹿下くんはなんだか、ご機嫌ななめな様子。
その横顔をまぶしそうに見つめて、井上先輩は満足そうに微笑む。

「何言っているのにゃん。猫神祭りはもうすぐなんだから、仮装のチェックは重要にゃ!」

今日は、お祭り前の最後の大詰めの準備。
わたしたち、猫巡り部は、猫の仮装をしてお祭りに参加する。
普段はそうはいかないけど、ハロウィン前に限っては、校内の仮装が許されていた。

「渚くん、かっこいいね」
「冬華も魔女の格好、すごく似合っているよ」

渚くんの言葉に、わたしはどきりとする。
まるで幸福の花びらのように、ふわりと舞って心に降り注いだ。
そこからさらに色づいていって、まぶしいほどの彩りで満ちていく。
だけど、そこに水を差すような怒声が響いた。

「とにかく猫耳、いらねーだろ!!」

鹿下くんは不本意そうに主張する。
猫耳のついたヴァンパイア姿の渚くんと鹿下くんは、毅然としてかっこいい。
だけど、鹿下くんは猫耳をつけることに、どうしても抵抗があるのだろう。

「ふむふむ。そんなことより、桐谷さんの悩み事を解決することが先決だね」
「無視すんなー」

井上先輩は相変わらず、鹿下くんの心情を置いてきぼりにして言った。

「まず、確認したいのは、桐谷さんのお母さんは、猫巡り部の活動をもっと頑張れと言ってきたんだよね?」
「はい」

わたしがうなずくと、井上先輩はずばっと矛先を変える。

「むむぅ、これは重大だぞ。猫巡り部の活動を活発化させる方法。鹿下くんは何かあるかな?」
「いきなり、丸投げかよ!」

ふふん、と井上先輩が誇らしげに笑うと、鹿下くんは冷静なツッコミをした。
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