猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
「みんな、かわいいね」
「ああ、かわいいね」
「でも、ベルちゃんがめちゃくちゃ、やきもちを妬きそう」
「……うーん、それは困るな」

わたしと渚くんの喜びをかぎ取ったのか、猫たちが甘えるように足元にすり寄ってきた。
温かく優しい毛並みと呼吸が、わたしたちの心を落ち着かせていく。
保護した猫たちと触れ合うのは何だか新鮮で、少しだけ胸が昂るのを感じた。

「わたし、これからも猫のためにできることをしていきたいな……」

わたしは確かな想いを口にする。

「今のわたしに、できることは少ないと思う。それでも、わたしなりにできることをしていきたい」

そうすれば、いつか猫嫌いのお母さんも、猫に目を向ける日がくるかもしれない。

嫌い。

それを変えることはかなり難しい。
だって、わたしも嫌いなものはいっぱいあるから。
だから、嫌いなものは嫌いでもいい。
でも、嫌いなものに目を向けることはできるはずだ。
たとえ、家で飼うことはできなくても、お母さんが猫に目を向けてくれたら嬉しい。

(だって、お母さん。猫巡り部の活動には、目を向けてくれたから)

今かな、今かなと、まだかな、まだかなと。
大好きな猫たちに囲まれながら、まだ見ぬ未来に手を伸ばす。

「冬華なら、どんなことでもできるよ。俺も、冬華と一緒に、今できることをしていきたい」
「渚くん、ありがとう」

渚くんが寄せてくれる笑顔と信頼こそが、何よりの幸せだ。

「安東くん、桐谷さん、そろそろ休憩してきていいよ! ここは私たちに任せてにゃ!」

お客さんが落ち着いてきた頃合いを見計らって、井上先輩が声をかけてきた。
屋台の対応で忙しかった影響で、まだ神社を回れていない。

「二人とも、猫神祭り、思いっきり楽しんできてにゃ!」
「井上先輩、ありがとうございます」
「行ってきます!」

井上先輩に見送られて、わたしと渚くんは肩を寄せ合うようにして歩き始めた。

「すごいねー」

弾む足取りで、人波に紛れるように進んでいく。
神社はいささか混雑していたが、流れが滞るほどではない。
多くは勢いに任せて昼間に押し寄せたようで、今は少し落ち着いていた。

「まるで、お祭りとハロウィンが同時に開催されているみたい……」
「ああ、きれいだな」

渚くんと並んで立てば、周囲は猫をモチーフにしたハロウィン一色に満ちていた。
数え切れないほどの屋台が、軒を連ねている。
どこもかしこも、明るい声で笑う猫の仮装をした人たちやハロウィンの仮装をした人たちで溢れていた。
わたしは、あちこちに描かれた猫神祭りのイラストを見つけてはしゃぎ、愛らしい猫の仮装をした子どもたちと会話をしつつ歩いていく。
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