猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
「どうしたんだ?」
「さっき一瞬、とんがり帽子をかぶった猫がいた気がして」
「今日は猫神祭りだからね。猫も、仮装をして遊びに来ているかもしれない」
「そうなんだけど、何か雰囲気が違ったような……?」

周りを見回したわたしははっとした。

「夢の中で出会った猫神様に似ていたような気がする。もしかして、猫神様、仮装してお祭りを楽しんでいるのかも」

そうこぼせば、渚くんの眼差しが祭りの喧騒へと注がれる。

「また会えたら、嬉しいなー」
「そうだね。でも、もしかしたら、今度は俺たちにバレないように、別の仮装をしているかもしれない」

わたしが花が綻ぶように笑うと、渚くんも口元を和らげた。

「それなら、トリック・オア・トリート! また、会いにきてくれないと悪戯しちゃうぞ!」

わたしはどこかにいるらしい猫神様の気配に呼びかける。

「びっくりして出てくるかもしれないな」

渚くんの微笑みに、わたしは弾むように歩く。
それは、小さな、楽しいかくれんぼの始まり。
そして、猫神様がくれた魔法が、確かに動き始めた瞬間でもあった。

わたしたちと猫神様の関係。

今までがそうだったように、何も変わらないのかもしれない。
それでも、大好きな人と一緒に幸せになりたいから、きっかけを掴めるならまた、猫神様に会いたいと思う。
わたしはこれからもきっと、願うように、渚くんに恋をするから。

「あのね、渚くん」
「ん?」

わたしはくるりと振り返って、まっすぐ渚くんと向き合う。
猫神祭り。
大好きな人と並んで、ここに居るという事実に胸がとくん、と高鳴っていた。

「わたし……もう一度、渚くんに伝えたいことがあるの。とても大切なこと」

こんなにも、誰かを求める日がくるなんて、思いもしなかった。
でも、誰かを大切に想うことに、特別な意味なんて必要ない。

「わたし、わたし……渚くんのこと……」

それを告げた時に、今日一番の笑顔を見られることを祈りつつ。
とっておきの『大好き』を、あなたに。
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