猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
「俺たちで、おまえを幸せにしてやる。覚悟しろよな!」
「……うん。今井くん、渚くんのクロム憑きになってくれてありがとう。渚くんと再会させてくれてありがとう」

真実を話してくれたことも、そうだけど。
もっともっと、小さく無数にある感謝を込めて。
気持ちを確かに手渡せば、今井くんの唇は微かに緩む。

「……麻人。今まで迷惑ばかりかけてごめん。でも、それを承知の上で言うよ」

渚くんはもう一呼吸を置いてから、照れくさそうに笑って今井くんに手を差し出した。

「俺と一緒に、冬華を幸せにしてほしい」
「くそー! 言われなくても、やってやる!」

軽やかに手を取る今井くんの頬に、涙が伝う。
それは戸惑いではないと、今度こそ、わたしも確信を持てた。

「……思えば、幼い頃、安東と桐谷と出会った瞬間から、こうすることは決まっていたんだろうな」
「幼い頃……?」

今井くんは一瞬、真顔になる。

「桐谷は覚えていないかもしれないけど、俺はずっと、おまえたちのことを見ていた。おまえたちはいつも一緒だったからな」

いつも一緒。
その言葉が、わたしの記憶を刺激した。

『あー。おまえら、きょうも、いっしょにあるいているな。ふたりは、いつもいっしょかよ』

わたしは、あの日の出来事を脳裏に描いた。

……そうだ。

わたしたちによく声をかけてきた、隣町の小学校のわんぱくそうな男の子。
……あの男の子は、今井くんだったんだ。

「まあ、正確には、おまえのことを見ていたんだけどな」
「……え?」

それはあまりにも突然で、突拍子もなくて。
そして何より、心臓の鼓動が一気に高まった。
それって……今までの今井くんの行動は、好意の裏返しだったってことで……。
わたしは恥ずかしさのあまり、真っ赤になっているはずの顔を隠したくてうつむく。
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