猫は、その恋に奇跡を全振りしたい
*
放課後の廊下、その喧騒を潜り抜けて、わたしは猫巡り部の部室を訪れた。
だけど、扉を開けると誰もいなかった。
代わりに机の上には、わたしへの置き手紙と猫神様が持っていた、渚くんの形見である片方のキーホルダー、そして小さな箱があった。
『桐谷さん、箱を開けてね。前に話した安東くんの瑠璃色の想い――『夢魂』を届けるにゃ』
手紙の差出人は井上先輩だ。
そういえば、『夢魂』って、夢を見ている人の魂のことだよね。
どういうことだろう。
わたしはキーホルダーを噛みしめるように握る。
そして、ゆっくりと箱を開いて――。
「えっ……?」
思わず、言葉を失った。
その瞬間、周りの景色が変わったからだ。
結婚式の会場。
まぶしい白いウェディングドレス、イノセンスの象徴たるヴェール、そして手にはブーケがひとつ。
わたしにとって、ウェディングドレスは憧れの衣装だった。
そして、隣にはタキシード姿の渚くんが立っている。
彼は今、わたしだけの王子様。
新郎の装いだ。
二人の結婚式――。
……そうだ。
いつか、こんな日が来るはずと信じてきた。
夢が叶ったこの瞬間もまだ、現実味は欠けている。
でも、まぎれもない『わたしと渚くんの願い』だった。
「……冬華、いいかな?」
渚くんがそっと耳打ちした。
何を、と訊くより早く、彼の腕はわたしを抱き上げていた。
ふわりとお姫様抱っこ。
少し照れくさい。
だけど、いっぱいいっぱい嬉しい不意打ちだ。
これが、渚くんの瑠璃色の想い――『夢魂』なのだろうか。
分からない……。
だけど、それが何であっても、わたしの胸の内にある言葉は同じだ。
――渚くん。わたし、幸せだよ。
こんなふうに、大好きな人と結ばれたかった。
想いが溢れそうだ。
嬉しくて仕方がなかった。
切なさを超えて、また、渚くんを好きになる。
『大好きだ。ロスタイムが終わっても……これからの時間を冬華とともに、ずっと生きていきたい』
『ずっと……』
不意に、過去のひとときのことを思い出した。
過去は、脈々と続く時の流れの中にある。
だから、わたしが、その過去に連なる少しだけの未来の出来事も一緒に思い浮かべたのだって、自然なこと……。
夢でも現実でも、どんな出来事にだって、『その後』が――後日譚があるものだから。
「渚くん、遅くなったけど、誕生日プレゼント」
あげたいものは、初めて出会った幼い頃からずっとずっと、決まっていた。
――心の真ん中で燃え続ける、一番の愛。
夢の終わりは、こんなにも美しい。
【完】
放課後の廊下、その喧騒を潜り抜けて、わたしは猫巡り部の部室を訪れた。
だけど、扉を開けると誰もいなかった。
代わりに机の上には、わたしへの置き手紙と猫神様が持っていた、渚くんの形見である片方のキーホルダー、そして小さな箱があった。
『桐谷さん、箱を開けてね。前に話した安東くんの瑠璃色の想い――『夢魂』を届けるにゃ』
手紙の差出人は井上先輩だ。
そういえば、『夢魂』って、夢を見ている人の魂のことだよね。
どういうことだろう。
わたしはキーホルダーを噛みしめるように握る。
そして、ゆっくりと箱を開いて――。
「えっ……?」
思わず、言葉を失った。
その瞬間、周りの景色が変わったからだ。
結婚式の会場。
まぶしい白いウェディングドレス、イノセンスの象徴たるヴェール、そして手にはブーケがひとつ。
わたしにとって、ウェディングドレスは憧れの衣装だった。
そして、隣にはタキシード姿の渚くんが立っている。
彼は今、わたしだけの王子様。
新郎の装いだ。
二人の結婚式――。
……そうだ。
いつか、こんな日が来るはずと信じてきた。
夢が叶ったこの瞬間もまだ、現実味は欠けている。
でも、まぎれもない『わたしと渚くんの願い』だった。
「……冬華、いいかな?」
渚くんがそっと耳打ちした。
何を、と訊くより早く、彼の腕はわたしを抱き上げていた。
ふわりとお姫様抱っこ。
少し照れくさい。
だけど、いっぱいいっぱい嬉しい不意打ちだ。
これが、渚くんの瑠璃色の想い――『夢魂』なのだろうか。
分からない……。
だけど、それが何であっても、わたしの胸の内にある言葉は同じだ。
――渚くん。わたし、幸せだよ。
こんなふうに、大好きな人と結ばれたかった。
想いが溢れそうだ。
嬉しくて仕方がなかった。
切なさを超えて、また、渚くんを好きになる。
『大好きだ。ロスタイムが終わっても……これからの時間を冬華とともに、ずっと生きていきたい』
『ずっと……』
不意に、過去のひとときのことを思い出した。
過去は、脈々と続く時の流れの中にある。
だから、わたしが、その過去に連なる少しだけの未来の出来事も一緒に思い浮かべたのだって、自然なこと……。
夢でも現実でも、どんな出来事にだって、『その後』が――後日譚があるものだから。
「渚くん、遅くなったけど、誕生日プレゼント」
あげたいものは、初めて出会った幼い頃からずっとずっと、決まっていた。
――心の真ん中で燃え続ける、一番の愛。
夢の終わりは、こんなにも美しい。
【完】


