逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
 蓮さんは、自分の手が私の手を握っていることに気付き、「ごめん」と言いながら手を離した。

「気にしないで」

 ──だって私なんて、あと10秒であなたにキスしてたかもしれないのだから。それに比べれば、手を握るなんて条例違反にも満たない。自転車の二人乗りよりも軽い罪だ。

「ご挨拶に行くのに、本当に普段着でよかった?」

 蓮さんの言葉に私は力強く頷く。

 スーツ姿の蓮さんなんて連れて行ったら「薫ちゃんが俳優さんを連れてきた!」と瞬く間に近所中の噂になって、我が家の玄関先にはサインを貰いに来る人の行列ができるに違いない。

 それに──スーツ姿の蓮さんは完璧だけど、普段着の蓮さんは、もっと素敵だから。

 今日の彼は、オフホワイトのシャツとニットを重ね、グレーの上質なメルトンコートを合わせている。

 カジュアルとフォーマルのちょうど中間くらいのスタイルが、蓮さんに一番似合う。そのことに気づいたときには、本人に伝えたくてウズウズしたけど、恥ずかしくて結局言えなかった。
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