逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
 春木賢一朗ほどの人気作家の作品が、いまだに映像化されていないことは、以前からネットニュースでもたびたび取り上げられていた。各社がオファーを競い合っているという噂も絶えなかった。……もしかすると伊吹くんは、「あわよくば」という気持ちで、原稿を自分に送信してしまったのかもしれない。

「……伊吹くんには、電話したの?」

 私が尋ねると、祐介は小さく頷いた。

「伊吹の昼休み時間だったから、タクシーの中でかけてみた。……しばらく呼び出し音が鳴ったあと、電源が切られて、それっきり」

 祐介の言葉に、譲原さんは背広の胸ポケットからスマホを取り出して、落ち着いた声で提案する。

「ここまで状況が明らかになっているのなら、ダークレイス社の三浦さんに直接確認してみてはいかがでしょう。春木先生さえよろしければ、今すぐお繋ぎできます」

 祐介は息を呑み、譲原さんのスマホを見つめた。まるで、この電話をかけた途端にダークレイス社の見えない糸に絡め取られ、もう二度と抜け出せなくなることを恐れているかのように。

 長い沈黙のあと、彼は小さく息を吐き、覚悟を決めたように「お願いします」と言った。

 譲原さんがまず電話をし、その後、祐介にスマホを手渡す。

「はじめまして。作家の春木と申します」

 先ほどまでとは打って変わった、落ち着いた声。その響きに、三年前の洗練されたビジネスパーソンだった頃の祐介が重なった。
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