逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX

第84話

 蓮さんのテラスハウスの玄関を開けた瞬間、出汁(だし)の香りがふわりと鼻腔をくすぐった。……懐かしくて、温かくて、まるで実家の食卓を思い出させるような香りに、思わず足が止まる。

 ──祐介が料理している?

 けれど、そんなはずはない。祐介は伊吹くんと話し合うため、まだ彼の部屋にいるはずだ。

 だとすると、この香りは──。

「薫、おかえり」

 リビングに入ると、カーキ色のエプロンをつけた蓮さんが、キッチンから顔を覗かせた。

「ただいま。……蓮さん、本当に、早く帰ってきてくれたんだね」

「もちろん。薫と約束したからね」

 その言葉に、少しだけ胸が詰まる。

 本当なら、私には蓮さんに合わせる顔なんてないはずだった。祐介が抱える秘密を知っていながら、蓮さんや知里さんに話さずにいる。その罪悪感が、心に重くのしかかっているのだから。

 でも……それでも私は、ここに帰ってきてしまった。

──今日も一緒に寝てくれる?

 今朝、蓮さんがそう尋ねたときの表情が、ずっと心に残っていた。

 明け方、まどろみの中で聞こえた「愛してる」という言葉。それが本当に蓮さんの声だったのか、それとも私の都合のいい妄想だったのか──今となってはわからない。

 だけど、少なくとも、蓮さんは私のことを大切に思ってくれている。そして私は──それを信じたいと思っていた。

「祐介くんは?」
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