指輪
そこにいるはずのない人物だった。
いや、
いてもおかしくはないけれど。おかしくはないけれど -

夕暮れの金色が黒髪をつやめかせる。長い前髪が長いまつ毛にメイクのような影を落とす。
長身で細身の。

「やぁ」

まるで昨日会ったばかりのような調子で、あなたはわたしにそうあいさつした。
「や、やぁ」
(どうして)
あなた、

高校生のままじゃない -

音が止まる。クッキーとキャンディとマシュマロの宣伝に満ちた街の色が止まる。何も聞こえなくなる。あなたの声だけが聞こえる。

- 将来、何になりたい?
- えっと、大学行って、就職して……
- ちがうちがう。
将来「なりたいもの」だよ。

(そばにいたかった)
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