【短】卒業〜各務昴の場合〜
捕獲はスイートルームで
彼女にはああ言ったが、来てくれる保証なんてものはなく、俺は16時からホテルのロビーで時間を潰す羽目になった。
こんなに落ち着かない時間を過ごすのは生まれて初めてだ。大学の合格発表の時でさえまだマシだった気がする。
ホテルのラウンジで2杯目のコーヒーを胃に流し込みながらロビーの様子を見ていると、可愛らしいピンクのワンピースに身を包んだ彼女が現れた。
「よお。早かったな」
内心は来てくれた事実に舞い上がって踊り出したいくらいテンションは上がっているが、あえて冷静を装って彼女に声をかける。
もうここまでくれば彼女に逃げ場はない。
俺は彼女の手を引いて歩き出した。
あらかじめ予約していたスイートルームに連れて行けば、彼女は目を丸くして部屋を見渡している。
まだ助手の俺にとって決して安くない金額だが、彼女とのこれからを思えばこの部屋にして良かったと思っている。
彼女をイスに座らせて向き合うと、何か考え込んだ表情をしている。
どうしてこんな事するのかと言う彼女に、お前の卒業を俺が祝って悪いのかと言ってやれば彼女が激昂した。
「ただのセフレに、こんな事するなって言ってんの‼︎」
俺を睨みつけながらそんな事を言う彼女に、愛しさが込み上げる。
普段何事に対しても淡々としている彼女が、俺に対して初めてこんなにも感情をむき出しにしている。
自分を特別扱いするなと怒りをあらわにしている。
その言葉に隠された真意に俺は気付いている。
ここからが勝負だ。俺はゆっくりと口を開いた。
「俺はお前をセフレだと思ったことなんて一度もない。確かにそう思わせる言動を取ってきたし、勘違いさせてるって事も分かってた。敢えてそうしてきた事を後悔はしていないし、お前に勘違いされて悲しいなんて事もない」
「……意味がわかりません」
「わからないんじゃなくてわかりたくないんだろ。賢くて人の感情に敏感なお前の事だ。お前は俺の気持ちにも自分の気持ちにも本当は気付いてる。それを見ない振りをするお前の事を、今までは甘んじて受け入れてきた」
そこまで一息に言って、俺は深呼吸をした。
柄にもなく緊張しているが、3年前から伝えたくて仕方なかった言葉を真っ直ぐ目を見ながら彼女に伝える。
「好きだ、かんな。今までは助手と生徒の関係って事もあって大っぴらには出来なかったが、卒業したなら遠慮はしない」
だから俺を選んで。
いいかげん怖がってないで自分の気持ちを受け入れろ。
まだなんだかんだとゴネる彼女にそう言ってやれば、彼女は今にも泣きそうな表情をしながらこう言った。
「私は……あなたが求めるものを、あげられるかわからない」
自分に自信がない彼女らしい考えだ。だから言ってやる。彼女が俺の隣で安心して笑っていられるように。
「何かを差し出そうと思わなくていい。今のお前のままで。口下手で、臆病で、自分に自身がなくて、でも他人を思いやる事を忘れない等身大のかんなでいいんだ」
だから諦めて俺の女になれ、そう言って手を差し出す。
ゆっくりと重ねられた手をしっかりと握りながら、俺は彼女に知られぬように安堵の息を吐いた。
こんなに落ち着かない時間を過ごすのは生まれて初めてだ。大学の合格発表の時でさえまだマシだった気がする。
ホテルのラウンジで2杯目のコーヒーを胃に流し込みながらロビーの様子を見ていると、可愛らしいピンクのワンピースに身を包んだ彼女が現れた。
「よお。早かったな」
内心は来てくれた事実に舞い上がって踊り出したいくらいテンションは上がっているが、あえて冷静を装って彼女に声をかける。
もうここまでくれば彼女に逃げ場はない。
俺は彼女の手を引いて歩き出した。
あらかじめ予約していたスイートルームに連れて行けば、彼女は目を丸くして部屋を見渡している。
まだ助手の俺にとって決して安くない金額だが、彼女とのこれからを思えばこの部屋にして良かったと思っている。
彼女をイスに座らせて向き合うと、何か考え込んだ表情をしている。
どうしてこんな事するのかと言う彼女に、お前の卒業を俺が祝って悪いのかと言ってやれば彼女が激昂した。
「ただのセフレに、こんな事するなって言ってんの‼︎」
俺を睨みつけながらそんな事を言う彼女に、愛しさが込み上げる。
普段何事に対しても淡々としている彼女が、俺に対して初めてこんなにも感情をむき出しにしている。
自分を特別扱いするなと怒りをあらわにしている。
その言葉に隠された真意に俺は気付いている。
ここからが勝負だ。俺はゆっくりと口を開いた。
「俺はお前をセフレだと思ったことなんて一度もない。確かにそう思わせる言動を取ってきたし、勘違いさせてるって事も分かってた。敢えてそうしてきた事を後悔はしていないし、お前に勘違いされて悲しいなんて事もない」
「……意味がわかりません」
「わからないんじゃなくてわかりたくないんだろ。賢くて人の感情に敏感なお前の事だ。お前は俺の気持ちにも自分の気持ちにも本当は気付いてる。それを見ない振りをするお前の事を、今までは甘んじて受け入れてきた」
そこまで一息に言って、俺は深呼吸をした。
柄にもなく緊張しているが、3年前から伝えたくて仕方なかった言葉を真っ直ぐ目を見ながら彼女に伝える。
「好きだ、かんな。今までは助手と生徒の関係って事もあって大っぴらには出来なかったが、卒業したなら遠慮はしない」
だから俺を選んで。
いいかげん怖がってないで自分の気持ちを受け入れろ。
まだなんだかんだとゴネる彼女にそう言ってやれば、彼女は今にも泣きそうな表情をしながらこう言った。
「私は……あなたが求めるものを、あげられるかわからない」
自分に自信がない彼女らしい考えだ。だから言ってやる。彼女が俺の隣で安心して笑っていられるように。
「何かを差し出そうと思わなくていい。今のお前のままで。口下手で、臆病で、自分に自身がなくて、でも他人を思いやる事を忘れない等身大のかんなでいいんだ」
だから諦めて俺の女になれ、そう言って手を差し出す。
ゆっくりと重ねられた手をしっかりと握りながら、俺は彼女に知られぬように安堵の息を吐いた。