火の中の救世主

5.新たな危機

夜の街は静かで、昼間の喧騒が嘘のように消えていた。

アルバイトを終えた美咲は、いつもの帰宅ルートを歩いていた。
カフェで働く日々は忙しいが、心地よい疲労感が彼女を包んでいる。

「今日も無事に終わった……」

小さく呟きながら、美咲は肩の力を抜いた。
ストーカー事件や火事から時間が経ち、少しずつ日常を取り戻していた。

しかし、その平穏は突然崩れる。


ひとけの少ない路地に差し掛かった時、美咲は背後に人の気配を感じた。
振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。彼の目は鋭く、美咲をじっと見つめている。　　

「……何か御用ですか？」

美咲は警戒心を抱きながらも冷静に声をかける。
しかし、男は無言で近づいてきた。
その瞬間、美咲の腕が強く掴まれる。

「ちょっと来てもらおうか」

男の低い声が耳元で響く。　
美咲は恐怖で体が硬直した。
それでも必死に抵抗し、声を振り絞るように叫んだ。

「助けて！」　

もがきながら振り払おうとするが、男の力は強い。
美咲は心の中で「誰か来て……」と祈った。



その時――


「おい！何やってんだ！」

低い怒声が路地裏に響いた。
振り返ると、そこには涼太が駆け寄ってきていた。

男は驚き、一瞬動きを止める。
その隙に涼太が素早く美咲を引き離し、男を睨みつける。

「警察だ。お前、何してるか分かってんのか？」

男は怯んだ様子を見せたが、すぐに態度を硬くして

「何もやってない」と否定する。

涼太は冷静に「嘘は通用しない」と言い、男を取り押さえようとする。

しかし、男は突然涼太の腕を振り払い、逃げ出そうとする。
涼太は素早く反応し、男を追いかける。

「止まれ！逃げるな！」

二人は路地裏を走り回り、美咲はその様子を見守るしかなかった。
男は狡猾で、逃げ道を知っているかのように走り回る。しかし、涼太は彼を追い詰め、最終的に壁に背を押し付けて制圧する。

「もう動くな」

涼太は冷静にそう言い、男を逮捕する準備を始める。
美咲はその場で震えながら、涼太に助けられたことに感謝する。

「ありがとう……」

涼太は美咲に優しく微笑み、「大丈夫か？」と尋ねる。


美咲は小さく頷き、「大丈夫……」と答えた。