火の中の救世主
その夜、美咲は自宅のベッドに横たわりながら、今日起きた出来事を思い出していた。

涼太のおかげで助かったものの、自分自身では何もできなかったという無力感が胸に押し寄せる。

「また迷惑をかけてしまった……」

美咲は天井を見つめながら呟いた。
この数ヶ月間、自分ばかり助けられている気がしてならなかった。

ストーカー事件、火事、そして今回の誘拐未遂――すべて自分一人では解決できなかった。

「私って……本当に弱いな」

涙が頬を伝う。

それでも、美咲は誰にも頼らず生きていこうと決めていた過去の自分を思い出す。

「誰にも迷惑をかけないために頑張ってきたのに……」

しかし、その頑張りが空回りしていることに気づいてしまった今、美咲はどうすればいいのか分からなくなっていた。

「次は何が起こるんだろう……」

その不安が彼女を追い詰める。




翌日、美咲は悠真と会うことになった。
路地裏で襲われたことを知った悠真は、「直接話したい」と言って彼女を呼び出した。

公園のベンチに座る二人。

悠真は真剣な表情で口を開いた。

「お前、本当に大丈夫なのか?最近危ないことばっかり起きてるじゃないか」

美咲は俯きながら小さく頷く。  

「大丈夫だよ。でも……ごめんね。また迷惑かけちゃって」

その言葉に悠真は眉間に皺を寄せた。

「迷惑なんて思ってない。でも、お前一人で全部抱え込むなよ」

「でも……私、自分だけ弱い気がして嫌なんだ」

美咲は涙ぐみながらそう答えた。

「悠真や涼太さん、颯斗みたいに強くなりたい。でも、そればっかりじゃ私が弱いままになっちゃう」

悠真はその言葉に一瞬言葉を失った。
そして、小さく息を吐いてからこう言った。

「俺だって完璧じゃない。でも、お前には守られてほしいと思ってる。それじゃダメなのか?」

美咲は何も答えられなかった。

ただ、その場から立ち上がり、「ごめん」とだけ言い残して歩き去った。
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