火の中の救世主
その頃、美咲はカフェを出て帰宅途中だった。
悠真からの電話で警戒していたものの、ふと目に入った煙と人々の騒ぎ声に足を止めた。

「ここ……火事？」

彼女は迷いながらも現場へ近づいていった。
その時、スマホが再び振動した。画面を見ると悠真からだった。

「美咲！今どこだ！」

電話越しの悠真の声には明らかな焦りが滲んでいた。

「まさか現場近くにいるんじゃないだろうな？」

「……ごめん。でも、大丈夫だから」

美咲は小さく答えた。
しかしその時、建物内から助けを求める声が聞こえてきた。

「誰か！助けて！」

その声に反応するように、美咲は無意識に建物へ足を向けてしまう。

「待って！今行きます！」

「美咲！やめろ！絶対入るな！」

悠真の叫び声が電話越しに響く。
しかし、美咲はその声を振り切るように建物内へと駆け込んだ。


建物内での救助活動が進む中、悠真の無線が鳴った。
涼太からの緊急報告だった。

「藤堂！美咲ちゃんが建物内にいる可能性が高い！」

その言葉に悠真は目を見開いた。

「なんだって！？どうして分かるんだ？」

「現場近くで目撃情報があったんだ。それと、逃げ遅れた住民の目撃証言もある。女性が助けようとして中に入ったって……」

涼太の声には焦りが滲んでいた。

「くそっ……」

悠真は拳を握りしめた。
颯斗から「次に気道熱傷を負ったら命が危ない」と警告されていた美咲。

その彼女がまた危険な状況にいる――悠真の胸には焦燥感と苛立ちが渦巻いていた。

「俺が行く！美咲を見つける！」

悠真は無線で指揮官に報告しながら、建物内への突入準備を急いだ。
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