火の中の救世主

1.孤独と再会

東京の街はいつも忙しなく動いている。

人々が行き交う駅前の雑踏を抜け、美咲はアルバイト先のカフェへと向かっていた。
春の夕暮れ、空にはオレンジ色の光が広がり、少し肌寒い風が頬を撫でる。

「いらっしゃいませ!」


カフェに入ってくる客に笑顔で挨拶をする美咲。
その笑顔は柔らかく、どこか温かみがあった。
常連客からも評判の良い彼女だったが、その笑顔の裏側には誰にも見せない孤独が隠れていた。


高校2年生の時に両親を亡くして以来、美咲は一人で生活している。
親戚からの支援も断り、自分で学費を稼ぎながら大学に通っていた。

誰にも頼らない――それが彼女の信念だった。



夜、アルバイトを終えて帰宅すると、部屋には静寂だけが広がる。
美咲はカーテンを閉め、机に向かう。大学の課題を片付けながらも、ふと手を止めて窓の外を見る。

「……今日も静かだな」


呟いた言葉は誰にも届かない。
それでも、美咲は自分に言い聞かせるように微笑んだ。

「大丈夫。一人でも平気だから」


翌日、カフェでいつものように接客をしていると、一人の男性客が入ってきた。

背が高く、短髪で精悍な顔つき。
その姿を見た瞬間、美咲は思わず目を見開いた。

「美咲?」

その男性は驚いた表情で美咲を呼んだ。

「……悠真?」

美咲もまた驚きながらその名を口にした。
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