火の中の救世主

瓦礫や炎によって通路がほとんど塞がれている中、悠真は懸命に進んでいた。
煙で視界はほぼゼロ。熱気で肌が焼けるような感覚に襲われながらも、彼は足を止めなかった。

「美咲！どこだ！」

悠真は叫びながら進むが、返事はない。
無線越しには「建物全体の崩落が近い」という指示が飛び交い、隊員たちからも「藤堂、早く戻れ！」という声が聞こえてくる。

だが、悠真の頭にはただ一つ、「美咲を見つける」という思いだけがあった。

「頼む……どこにいるんだ……」

汗と煙で防護マスクの内側が曇り、視界はさらに悪化する。それでも彼は瓦礫をかき分け、一歩ずつ前へ進む。



その時――



「ドン！」

またしても爆発音が響き、悠真の足元に瓦礫が崩れ落ちてきた。
彼は咄嗟に身を伏せて避けたものの、その衝撃で一瞬耳鳴りがし、意識がぼんやりとする。

「くそっ……」

立ち上がりながら再び美咲を探す。
しかし何度呼びかけても返事はなく、瓦礫の山ばかりが目に入る。

「お願いだ……出てきてくれ……！」

悠真の心は焦燥感と絶望感で押し潰されそうになっていた。その時――


後ろから隊員たちが駆け寄ってきた。

「藤堂！もう無理だ！建物全体が崩れるぞ！」

「まだだ！俺はまだ見つけてない！」

悠真は振り払うように叫ぶ。
しかし隊員たちは彼の腕を掴み、「これ以上進むのは危険すぎる！」と強引に外へ連れ出そうとした。

「離せ！俺はまだ――」

悠真は必死にもがくが、その間にも建物内では天井や壁材の崩落音が響き渡る。
隊員たちは彼を無理やり外へ引きずり出した。
外に出た瞬間、悠真は膝から崩れ落ちた。

そして拳を地面に叩きつけながら叫ぶ。

「くそっ……なんでだよ……！」

顔を覆いながら涙を流す悠真。その姿を見た周囲の隊員たちは言葉を失った。

しかし――


「諦められるわけないだろ……！」

悠真は立ち上がり、防護マスクを再び装着した。

「俺は行く。絶対に助ける」

その目には強い決意と覚悟が宿っていた。