火の中の救世主

2.ストーカー事件

東京の夜は、昼間の喧騒とは違う静けさを纏っている。ビルの明かりが星空を隠し、街灯がぼんやりと歩道を照らしていた。
その光の下、美咲はアルバイトを終えた帰り道を急いでいた。

「今日も無事に終わった……」

小さく呟きながら、美咲は肩の力を抜く。
大学とアルバイトの両立は大変だが、彼女にとってそれは日常だった。

しかし、このところ少しだけ気になることがあった。



背後に誰かの視線を感じる――そんな気がしていた。

最初にそれを感じたのは数日前だった。
カフェで働いている時、妙にしつこく話しかけてくる男性客がいた。
30代半ばくらいのその男は、いつも同じ時間帯に来店し、美咲がレジに立つタイミングを狙って注文してきた。

「今日も頑張ってるね」

「君みたいな子がいると、この店も華やかだよね」

最初はただの世間話だと思っていた。
しかし、ある日その男がこう言った時、美咲は背筋が凍る思いだった。

「君、帰り道どっち？送ってあげようか？」

笑顔で断ったものの、それ以来彼の視線が妙に鋭く感じられるようになった。
そして、仕事帰りには誰かにつけられているような気配を感じるようになったのだ。
< 6 / 25 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop